隅田川をお散歩して、映画を見る 〜「隅田川野外上映会」

最初はこんな言葉からだった。
隅田川沿いにスクリーンとプロジェクターを持ち込んで、野外上映会を行います。
夜景がやたらときれいで、風が心地よくって、ビールなんか飲みたくなります。」

わ、いいな!と思ったら上映作品が
濱口竜介『はじまり』、瀬田なつき『あとのまつり』、小林達夫『少年と町』
じゃあないの!!見たかったのと、大好きなのと。

開催は9月末と10月頭の週末4日間。10〜15分程度の短編を数本上映し各日1時間ほど。そんな”サクッと”感もいいなと思うし、なにしろ驚いたことは、「受付場所の両国橋のたもと」から「上映場所の隅田川テラス」まで、川沿いを「お散歩していただきます」という注意書き!ドキドキしてしまった。そしてこの素敵な企ての主催者である高野徹さんも映画監督であり、自身の作品『お姉ちゃんとウキウキ隅田川』なども上映するという。

夕刻の隅田川はとても気持ちがよい。
柔らかい光と風、
行き交う屋形船、
寄り添って歩く男女たち。
そんな時間の隅田川をお散歩して、映画を見る、
隅田川野外上映会」を催します。
http://webneo.org/archives/4300

なんて私向きの上映会なんだろうか!


9月末は台風上陸で中止になった日もあったけれど、最終日の10月7日、お散歩して楽しんだ!この日は時々しかカンバンを出さない某さんがネルで淹れた珈琲をちびりちびりといただいてから移動。
渋谷で改装したタワーレコードに寄り、なんやかんやと独りごちながらベス・オートンの久々の新譜を買う。それから明治通りを歩いていたらポール・スミスの前にポール・スミス御本人がいらっしゃり、驚いた。原宿の交差点を突っ切り、人を避けながらひょいっと脇道へ。

この切通しな坂道が昔から好きだ。界隈がどんどん変わりながらも今もかつての面影を湛えていて、私はいつでもタイムスリップしてしまう。千駄ヶ谷の裏道をくねくね進む。

何度歩いても楽しい道なりで代々木駅。ここで総武線に乗る。市ヶ谷辺りのお濠端が好き。陽が傾いてきた。

浅草橋駅下車。秋葉原から東へ出るとアウェイ感ひしひし。大通りではなく、閑散とした柳橋(町名の)へ入る。

程なくして川へ出る。神田川、ちょうど隅田川に合流するところ。

船宿に、

猫。

こんにちは。


柳橋を渡る。この浅草橋駅からの道のりが上映作品に繋がるとは思いもしなかった!


受付場所の両国橋のたもとでスタッフの方に「ドリンクチケットです」と、赤の水玉柄の靴の中敷をいただいて、いざ。


隅田川!きもちよいなあ。走ってる人が結構多い。カヌーの人もいる。

そしたら、ふと、音楽が聞こえてきたのだ。え?

吹奏楽の練習で奏でられる音にぐっときて、泣きそうになった。
あ、、、でも、まさか、、、?
これは偶然じゃないのかも、、と思った。
でも向こうの学校からも練習の曲が聞こえてくる。
偶然にしろ演出にしろ、粋で素敵だなあ。と思っていたら、撮影隊とすれ違う。
ナルホド。ふふふ。楽しい。
 





高速の、カーブするこのラインがすき

5分もしない内にスクリーンが見えてきた。
 
ここが会場。階段に赤のチェックのシートを使った座席があって、”開場”時の映像として?成瀬巳喜男の「流れる」が上映されていた。ここで映し出されるのはかつて花街であった柳橋。あ、そうだよ、さっき私歩いたじゃん!
過去と今、映画と私が繋がって、身震いする思い。


暗くなってくると川辺の色も変化して、水面に映る看板の青い光(明治ブルガリアヨーグルト!)がたぷんたぷんと輝いている。正面の高層マンションにもたくさんの光が灯る。これからここで映画を見るなんて不思議な気分。ちょっと肌寒くなってきた。上映会が始まった。


「あとのまつり」は何度見ても高鳴る大好きな作品。『走る走る走り抜ける、街にはたくさんの何かが転がっている、だから出逢い、「はじめまして!」って手を振るのだ、「イルカが手を振ったこと」を知らないのだからね』 → http://d.hatena.ne.jp/mikk/20100123/p1


「はじまり」は言葉と隙間から浮かび上がるものに持ってかれた。ただ個人的には「言葉」が立ちすぎに感じられた。舞台では出来ないでしょ映像だからこそでしょ?なのかもしれないけど。コドモ演技だから余計にそう思うのかな、固い感触があって、エンディングのポスト・ロックな楽曲にも違和感が。とはいえ濱口監督作はこれが初めてなので、ほかの長編を見たいと強く思った。


「少年と町」すっごく好き!痺れた。ツトツトと爪弾かれるギターの音色、キュッとした空気のなかにイビツなアンバランスさがあって、こころがジリジリとしてきて最後、パツっと切っ先、ノイズに掻き消されてしまって、固まって、取り乱された。なんというか、この1作しか見てないけど感覚的に合うというか、うん、好き。2作目の「カントリーガール」、見たかったんだけどレイトで断念しちゃったんだった。2月に新作公開されるとのこと、楽しみです。


「お姉ちゃんとウキウキ隅田川」このタイトルだけでも賞取れるけど、主人公のふとっちょ男の子のイイ顔ったら。ユーモアのセンスが素敵!全肯定な広がり!柳橋のほとりの佃煮屋さんから始まる小さな恋物語。そうか、この上映会はここに繋がるのね。こんな企画立てられる監督の映像なんて、素敵で粋で楽しくてワクワクするに決まってるよなあ。


川、歩く、子供、男の子 女の子、、、4本ともあらゆる点で”繋がってて”ナイスセレクトでした。
4人の監督は20代後半から30歳くらいでしょうか。音楽の使い方に、”90年代の終わり〜2000年代の初め” に「見て聴いた」世代感が出ているように思いました。音楽を意識的に聴き始めたときに耳にしたのがポスト・ロックだった世代、とでもいうか。高野監督の越路吹雪で踊ってしまう感覚も、年代の隔たりなく固定概念無く即出会えるよな今だからかなあと。


準備などとても大変だったことは確かでしょうが、そのバタバタな苦労を感じさせず、スタッフの方々も楽しんでやっていらっしゃるように思えました。ともかくアイデアが素敵で、それが最良の形で演出され、素晴らしかったです。既存の力に寄らずに自分たちで立ち上げてやってのけちゃうのは、「今」だからこそでしょう。
ご挨拶された主催の高野さんは見るからに好青年な印象で、今回の「楽しさ」は彼の人柄によるのだろうなあと感じました。まだ大学院生って!若いよ!若さって素晴らしい…。


隅田川沿いを歩いて、夕暮れから夜の闇に変化する景色を眺めながら階段に座って映画を見たこと。暑くなく寒すぎず(ちと寒かったケド)、花粉症などもなく、期間としてはここしかない!って日程だったかもしれません。散歩と映画が大好きな私には万歳!な会でした。急いで帰ってしまったけど、あのあとも隅田川のほとりを歩きたかったです。