ドライブイン蒲生

このところ言葉を見えない世界へ放つことに戸惑いを感じてしまい、暫し離れていました。今日は祝日で、「フレンチ・ポップ三昧」を聞きながらエエイ!と綴ってみると、出来るものですね。。。


ヤマジさんが映画の音楽を担当すると知ってオッ!と思いながら監督名を見ると「たむらまさき」とあり、どなたかと思ったらこれまで撮影監督として名を馳せた方であり、手掛けた作品の錚々たる並びに驚愕!「75歳の新人監督」だそう。

その後音楽はこの映画用に付けたものではなく、「blue bus」「月夜にお願い」が起用されていることを知り、震える。私が数多のヤマジワークスの中でも特に好きな「blue bus」が使われているなんて・・・!ちょっと!!!
更に更に主演が染谷将太くん!あの(!)イントロが鳴り響く予告での「狂気を孕む死んだまなざし」に、”かつての”ヤマジさんが重なってぞくりとした。

そんな前提を持って見たこの作品、音楽の付け方に驚いた!ファンとしては当初複雑な気分がチョットあった*1けど、世界を透明に斬りつける、ヤマジギターの殺傷力の高さたるや!!!これが幾度もやってくるんだよ*2。時折やってきてはクッと心の奥底を表面化するスイッチになって遠い記憶に漂うかと思えば、プツッとシールドを引き抜いてしまう。。何処にも行けない停滞する空気の居心地の良さ。なんだか一時期のdipがまとっていたものと似ていた。
ナタリーの記事によると、「今作の音楽監督・平田和彦がヤマジに音楽を依頼しようとしていた矢先にガンで逝去し、その遺志を受け継いだ映画の制作者からオファーを受けてヤマジは楽曲の使用を快諾した」という。そこで漸く気づいたのですが、平田さんはポニーキャニオン内に設立された「コンフュージョン・レーベル」でディレクターをされており、記念すべき1枚目(PCCC-00001)がDIP the FLAGの「ERA」なのですね……。
そうそう、青山真治監督が今作の感想として『ギターがトム(・ウェイツ)さんのダウンタウントレインみたいな音でね。好きだった』ってツイートしてらして、嬉しかった。


遠い記憶を呼び起こすギターの響きに呼応する画面の隙間に、寂びれたハコのなかで不意に立ち上がる光の端に、胸を突かれる。引いたまなざしで淡々と映し出される彼らの箱庭な暮らしをくふくふと笑いながらずっと見ていたかった。だらしなくならずに飄々と身をかわしてこちらをケムに巻き*3、真剣に楽しんでるさまに、にまにましてしまう。染谷くんも笑いをかみ殺しながら演じていた場面があったなあ。まさに役者とカメラの対話がそこにあった。
「メルシー・ボクー」はアドリブなんだそうだ。ヤキソバパンの食べ方は脚本どおりなのかな、その場の思いつきなのかな。あのシーンすき。ふたりだけの、晩餐。ダンスも花火も、懐かしい思い出はバカバカしくて楽しくて、やがて切ない余韻が残る。達観した若々しさが生み出す不思議なバランス。なんと撮影期間はたったの5日間!ほぼワンテイク!あんな長回しが紡がれてくなんて。細やかな生活音も良かったナア。

こちらのインタビューにもぐっときました。

・僕はキャメラマンとして、本番中はいつでもレンズ越しに相手とやり取りをしてるんですよ。
・そういうやりとりをしていると、無意識に、光学的なものとは別の、写らない何かが走る瞬間があるわけです。それを私は「対話」と言っているんですけど。
・本当に画面というものは隠せないです。その対話がシーンの「あや」になると私は思うんです。つまり、ショットの感じが演じてる人の感じにともなったとき、セリフやト書きというのを超えて、もうひとつの「ある感じ」が醸し出されるわけです。
伝説の現場はこうやって生まれる たむらまさき×染谷将太対談

最後に・・・

ライブでの「blue bus」と続いて演奏される「after the gold rush」のカバーがとても素晴らしいので、この映画で知った人に是非聴いて欲しいです。

ヤマジカズヒデ ソロ BOX SET 3枚組

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*1:ダンスシーンも染谷くんの動きが秀逸な素晴らしい場面だけど、あのときのあの曲は「イケテナイ曲」として流れるから、成り立ってるんだよね。。。

*2:贅沢いえば、良い音で聴きたかった……。ヤマジさんは録り直ししたかったようですが

*3:さっき書いた予告の、「狂気を孕む死んだまなざし」の果てすらかわしちゃう