ギャラリー巡り

ギャラリーに行くときは大抵散歩とセットで、その道中も鑑賞に入っているように思います。行くときの天気で気持ちも違うし、窓のあるギャラリーだと光の影響もあります。ギャラリーを巡るのは自分と外界との対話のようなところもあって、私にはとても大切な時間だと最近改めて思うのです。


杉戸洋「とんぼ と のりしろ」 | 東京都美術館
宣伝気合入ってたし、そもそも何故都美で?と謎だったけど、前川建築な空間で3部構成、昭和のホテルみたいな雰囲気に立派な額装で展示したり、制作途中のアトリエみたいな部屋だったり、油彩と思いきやタイル壁画だったり。館内を散歩するように見ることで面白みが増したように思う。それぞれを一般的ギャラリーで見てもそれなりに良いで終わったかも。会社帰りに遥々上野へ向かったその日は小雨交じりで、しんとした雰囲気だったから、ちょっとした神秘性が加わった気がする。



白井敬尚組版造形」 | ギンザ・グラフィック・ギャラリー
土曜の銀座。大集団の往来で賑やかな通りからスッと入ったここは、別世界。過去の知識や造形がいかに引用・参照され、形を変えて継承されていくのか、は背筋がしゃんとして向かい合う時間だった。テキストに込められたものを抽出し視覚的に表すこと。文字が単なる埋め草に使われてしまう昨今、文字組を造形する行為は書き手と読み手を正しく繋いでくれる。信頼あってこその仕事だと改めて思う。

この展示がとても素晴らしくて、次に向かうギャラリーへの道のりは心澄んでいたなあ。

上田義彦「旅の記憶」 | Gallery916
大好きなこのギャラリー。早い時間に行ったせいか広々とした空間は私ひとりで、何十年に渡る世界各地の旅の記憶に閉じ込められた時間と風景が静かに染み込んできた。未訪の土地なのに懐かしさと喪失感がじんわり残る。クリアな景色、ぼんやりした景色、感情と一体化したカメラ。素晴らしかった。



大槻素子「Passing Scenely」 | Takashi Somemiya Gallery
首都高の脇にそっと佇むここは秘密の小屋だ。2年前初めてココで見て、とてもよかったのだけど、今回もとてもすてき。ギャラリーに入ったときのテレピンのにおいに包まれて、目で捉えたものと心で捉えたもののあいだをすくい取るよな、くっきり/ぼんやり な形と色の表し方がキュッと胸を刺して震えてしまう。


瀧本幹也「Le Corbusier」 | MA2 Gallery
コルビュジエロンシャン礼拝堂を部分的に撮影し、浅く薄い色味で幾何学が浮かび上がり、抽象絵画のようだった。天井が高い会場の雰囲気とも合っていたなあ。

恵比寿の外れにあるMA2から銀座のシロイ画廊へどう移動しよう? > あ、銀座でも新橋寄りだから「新橋行きのバス」に乗るのはどうだ?> 少し歩いた先の通りにあるバス停に「新橋行き」がある!それだ!>と気づいたときの私の浮かれぶりを想像してください・・・

中林忠良「腐食の海/地より光へ」 | シロイ画廊
王道なギャラリーは久しぶり。繊細で強靭なモノクロームには長い歳月の層が感じられて、静寂な世界に吸い込まれそうだった。黒と白のあいだの細かな揺らぎ。版画制作は、刷師との共同制作でもあり、如何に版を作り、イメージ通りに刷り上がるかという点において、音楽制作と共通する部分があるかもと思ったりもする。