泣き虫しょったんの奇跡

今日は大型台風が上陸する報道により、家にこもった。先日見た映画について綴ります。

豊田監督の最新作が「将棋映画」であると知って胸の中がどよめいた。奨励会在籍経験のある豊田監督が遂に「かつての場所」へ手を伸ばしたのだから。しかも松田龍平主演で。タイトルがらしくないと思ったら、瀬川晶司五段の自伝が原作とのこと。


新宿での上映はテアトルではなく歌舞伎町のシネコンだった。
豊田映画なのに血が流れない!アウトローな言葉もない。駒を盤に指す音の響きが胸を刺し、刃や拳やギターにも聴こえた。「負けました」と自分から言わなければならない将棋の世界のボディーブローは、重いことだろう。
驚くほど「素直」で「真っ当」。奇跡の過程をドラマチックに描くのでは無く、これまで出会った人々によって紡がれたものであることを主軸にしていた。日々における誰かのさりげない言葉や表情が自分を形成するのだ。過度に盛って大げさに掻き立てる「奇跡」ではなく、子供の頃から”奇跡”に至るまでの日々のかけらを淡々と描いていることに豊田監督の想いが伺えた。
好きなことや熱中するものを見つけること。そして挫折して嫌になってもその炎はジリジリと心の奥底で灯り続ける。豊田監督は「沈んでいく夕陽をずっと追いかけていくようなもので、バカみたいな生き方なんですけど、僕はそういう生き方をする人が好きです」と言っていて、ああ、らしいなあと思いながら脳内再生で”13階段への荒野”の軌跡と"now gotta the sun"の果てを感じて、震えてしまう。1998年に「ポルノスター」で監督デビューして20周年記念作として、将棋映画に真っ向から挑んだことに泣ける。
この映画がたくさんの人々にずっとずっと見てもらえますように。新作としての今だけではなく、ずっと。将棋倶楽部に行くときの自転車並走シーンのように、いつまでも心の中で並走してくれる映画だと思う。そして豊田監督の新作をこれからもずっと見ていきたい。次作の小笠原諸島のドキュメンタリー(ヤマジさんとコーネリアスが音楽!)もめちゃくちゃ楽しみだし、爆音映画祭で見たいなあ。そしていつか、松田龍平染谷将太の”死んだ眼差し”コンビ主演でヒリヒリした映画を見たいです!音楽はもちろんdipでね!


恵比寿へ移動し、豊田利晃監督生活20周年記念「MOVIE STILLS FROM TOSHIAKI TOYODA FILMS 1998-2018」EXHIBITIONを見に行った。入った途端の荒野のモッズコートとマジソンスクエアバック!泣ける。空からはナイフが降っている!

あの写真この写真懐かしい一場面。中でも驚いたのは、監督が使用した台本がそのまま(カバーも無いし手袋着用も無い)置いてあり、自由に読んでよかったこと。ドキドキしながらページを捲ると、当時の細々したメモや資料などが挟み込まれたままで生々しかった。「青い春」で”幸せなら手をたたこう”作詞者への手紙まであって、真摯で丁寧な文章に泣けた。

9soulsにはヤマ字で「bend your head」!


「ポルノスター」は当初「われらの時代」というタイトルだったことに驚いた!受ける印象が随分違うねえ。公開時の宣伝用リーフは当時見てなかった。上條淳士が描いた”上條”がカッコいい。監督のコラムではdipを音楽に起用したことが随分赤裸々に書いてあって、レコード会社にそんなに厄介者扱いされてたんだなーと苦笑してしまう。


入口に関係者からのお祝いが飾られていたけれど、dipからもあってギャー!とビックリ。お煎餅だったことに笑ってしまった。配れるし実用的だし通な店セレクトでセンス良いなあ。

それから阿佐ヶ谷へ移動して、ユジクで「スパイナルタップ」を見た。初ユジクでコレ。可愛い映画館だと思ってたから可愛い映画を見たかったのにタイミング逃し続けて、コレ(笑)「スパイナルタップ」はそれこそずーっと話は目にしてたけど、今回漸く初見。面白かったけど、今となっては面白がれないジレンマ。とはいえコレも「ずっと続けること」な話ではある。


んで高円寺に移動。カレー食べてレコード屋寄ってCD買って、ライブハウスhighへ。
sugarplantとdipの対バンを見たのだった。紆余曲折を経てずっと続けてきた人たち。最後に先日のライブ感想に書いたことを再掲します。

受け身で淡々とした主人公しょったんが棋士として「再生する」物語であり、「将棋は純粋に楽しい」と思い出したこと、歳上の人からの「言葉」だとかこれまでのいくつもの出逢いが引き寄せた奇跡であり、「誰かが喜んでいることを喜ぶ人になってください」というくだりがダブるライブだった。ずっと続けること。il faut continuer.