神楽月




出社前遠回りして公園へ。都心もいつのまにか秋色で、冬へと歩き出している。


今週はいろんなことに振り回されて心がへとへとだった。会社を出て左へ曲がるのを右へ曲がって、歩き始めた。ビジネス街の路地を入ると古い家屋が密集していて、異世界に迷い込んだかのようだった。混むようになって遠ざかっていた店を覗くとすぐ入れて、こんな日は久しぶりだそうだから勘が働いたのかもしれない。おかげで静かな時の中でのんびりボーッとすることが出来た。店主は意図しない熱狂の渦に飲み込まれず疲弊せず、自身のちいさな店を変わらず保ち続けていて、ああこの場所のこの時間はずっと続くのだなあと嬉しかった。それからまた歩き続けた。暑いとか寒いとかの形容詞がつかない、良い意味で存在感のない気温だった。邪魔されることのない自由な空気だった。それにしても東京の夜空は明るい。だから東京にはたくさん人が集まってくるし、この明るさが嫌で去っていく人も多いのだろう。ビジネス街を横切り住宅街を抜け、繁華街へ出て本屋で数冊買い求め、映画館でチラシを貰って、電車に乗った。会社帰りの2時間半、ついリリカルになるほどにきもちよい散歩だった。