食堂にて

今日の仕事は終日外だった。お昼はどうしようかなと、ちょうど近くにある店に入った。何回か行ったことがあるけれど職場も遠くなり、土日が休みのここで食べるのは実に10年ぶりだった。ドアを開けた途端、くるっと風が舞った。
通された席は窓に向かって店内が見渡せる場所だった。テーブル前にはヨーロッパの石細工。ずらりと並ぶ蔵書を眺めていたら、「よかったら自由にお読みになって」と奥様が声を掛けてくださり手に取ったのは須賀敦子のエッセイ。読みながら待つと、前菜のレンズ豆のサラダ。それからパスタ、食後にチャイ。美味しかった。量も味付けも適切で、ちょうど良かった。
60~70歳ほどと思われるご夫婦2人で営むその店は、前も好きだったけれど、あの頃よりももっとずっと好きだなあって思った。この数日弱ってたせいもあるのか殊更滲みた、なんだか泣けた。店内の空気も、並ぶたくさんの蔵書も、料理の味わいも、店主さんが長年積み重ねたものなのだなあ。店をはじめる前から暮らしの中で蓄えられ、店を営みながら培ったものがこの空間をつくっていた。
会計の時に一言告げると、「そんなふうにおっしゃってくださってとっても嬉しいわ」と微笑んだ奥様の表情こそが、この店をつくりだす源だった。