三春〜大髙正人が故郷に残したもの

最終日。盛岡を新幹線で出発し、東京へ戻る途中で郡山駅で下車、立ち寄ったのが福島県三春町。ここは坂出市人工土地や広島市基町団地などで著名な建築家 大髙正人の生まれ故郷で、晩年に至るまで30年余に渡り、彼が手掛けた建物がいくつかあるのです。
以前見に行った大髙建築記録はこちら。
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駅に降り立ち、誰も歩いていない車道を20分ほど歩くと、急に開けたエリアになります。
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三春交流館まほら。2003年竣工の最晩年作。合掌造りの古民家のような外観は堂々としていながらも周囲に溶け込んでいます。比較的新しい建築になりますが、もっと昔からここにあったかのような印象を受けました。音楽ホールは音響にもこだわっているそうで、神奈川県立音楽堂東京文化会館前川國男の元で担当)、坂出人工都市にもホールがあったことを思い出しました。「町民の交流活動の促進と地域文化の振興に寄与することを目的」とした施設で、この日も地域の集会などで使用されていて、今も交流の場になっていることが伺えました。大髙さん曰く「私の仕事の総決算」。改めてゆっくり内部を見たい。


この先にある三春町歴史民俗資料館へ行こうとしたところ、
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えええええええええええ(愕然)
「臨時休館日」・・・。先月に三春へ行くことを決めて公式サイトを確認したときには、そんな情報無かったよよよ・・・(涙目)


とりあえず、入り口まで行ってみることにしました。急な坂道を登り、桜の木に囲まれた小高い丘の上にありました。
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伝わりづらい写真しか撮れなかったのですが、地形を損なわずに建てたことで館内からは三春の街を見渡すことが出来、この街をまさに体感できるそうです。

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三春郷土人形館も休館・・・わーん!大通りから一本入ったところの川沿いのこの通り道、素敵だった。

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小学校の正門。校舎は斜面の上ですが、通り沿いの古い門を残してあって良いですね。

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足元。外灯も三春駒を模した造形になっていました。

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三春交流館まほらのある通りは電柱地中化されています。手前の柱は電柱で、三春駒の形になっています。

大髙さんは三春の人々へこのような助言をしたそうです。

  • 「まちづくり」というが、古くて貴重なものを保存することが先決、自然環境・街並み景観・歴史的建造物は、一旦壊されれば復元は難しい。
  • 新しいものを造ることの怖さ・難しさの自覚を。いまの時代は品格を欠いた安っぽいものができてしまう危険が大きい。
  • 他所(外国や東京など)の真似は駄目。町固有の伝統と地域特性を良く考えて、それに磨きをかけることが基本。
  • 見栄を張ったり、背伸びをしたりしてはいけない。身の丈に合ったものを。しかし、小さくても本物を造る心構えを。
  • 時間や金が無いからといって、安物を造ってはいけない。良いものを造るコツは、充分に時間をかけること。仕事を頼む人を厳選すること。
  • 単年度で出来なければ2年、2年でできなければ5年かけてでもしっかりした計画や事業を。
  • 行政だけでできることには限度がある。良い街づくりを実現するためには、住民の理解と協力が必要。住民参加の街づくりが肝要。
  • 町だけの力で出来ることには限界がある。国・県の支援も必要だが、かといって政治的な力に頼ってはいけない。町に高い志と立派な計画があれば、国・県は動く。

「建築と社会を結ぶ 大髙正人の方法」より抜粋

昨今の報道を見ていると、ますますこういった意志とは反した世の中になっているし、体力すらなくなっていることに恐れを感じます。そんななかで上記項目の一部には紫波町によるオガールを思い起こします。


帰宅後に知ったのですが、「LIXIL eye No.19(2019年6月)」の特集記事が良かったので紹介します。
https://www.biz-lixil.com/column/pic/lixileye/no019/LIXILeye_no019_01.pdf



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最後にこちらへ向かいました。かつて東京の蔵前にあった店で、三春に行ったら是非伺いたかったのです。以前よりも更に穏やかでゆるやかな風が流れていました。大髙さんの建築やベッヒャーの話などをしながら、木工作家さんの個展のなかから小さな皿を購入。かねてから存じ上げている作家さんですが、旅先の三春で遂に我が手に。今回は資料館と人形館がおやすみだったこともあり、また三春に伺いますね、とお伝えし、小走りに駅へ向かいました。


駅のホームでもうじき来る電車を待っていると、50代と思われる女性に「写真を撮ってもらえませんか」と声を掛けられ、駅名標をバックに笑顔を浮かべた表情を撮ることが出来ました。彼女の旅の思い出を残すことが出来て嬉しい。私にとっても、今回の旅の最後に良き思い出となりました。(次回更新で盛岡旅日記最後です!)