PLANETIST〜劇場公開版

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豊田利晃監督 最新作。逮捕騒動やコロナの影響で公開が伸びに伸び、漸く一般公開。
2014年1月に父親を亡くし、実家を売り払った豊田監督が、“一生に一度は行きたいと思っていた“小笠原へ6月に初訪問。そこでの出逢いに魅了され2ヶ月後には住民票を移して制作開始。翌年にはGOMA窪塚洋介、渋川清彦が、その翌年に中村達也が来島し、撮影。ヤマジさんの演奏シーンは2017年撮影で、この年に「泣き虫しょったんの奇跡」を撮影しつつ、2018年のフィルメックスで初上映。鑑賞時の感想は以下に。
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豊田監督の作風はテンボが重めゆえ、166分は長過ぎるし、予想通り一般公開版は119分に短縮された。窪塚さんが小笠原のヴァイヴスに心酔していく無邪気な危うさや繰り返しすぎじゃろな夕陽のショット、後半の説明的なところや監督の宮川さんへの陶酔を思わせる箇所がカットされた印象。強い想いの偏りを均すことで、受け入れやすくなっていた。進次郎あたりが「日本固有の自然の美しさと環境問題を考えるためにも必見です!」とコメントしたら、ヒットするんじゃないかしら……(えー)


渋谷駅で電車を降りて歩くのはいつぶりだろう? 湿度の高い空気は、渋谷を覆う停滞する空気を更に重くさせ、情報量に押しつぶされそうになりながら、開演ギリギリにユーロスペースへ入った。初日舞台挨拶は、監督・GOMAさん・渋川さん・ヤマジさんが登壇。「映画館に映画を見に来てくださってありがとう」と豊田監督。「緊急事態宣言で公開延期された時よりも、感染者は多いという……」確かにそうね。


舞台挨拶が終わるとGOMAさんがステージに残り、ディジュリドゥを演奏。ズムズムズムと渋谷の大地の奥底から立ち昇る音をGOMAさんが操り、グルーヴが生まれる。ああ、生演奏なんて3月末以来だ!今ここで、目の前で、音が生まれ体内を直撃する喜び!静かに客電が消え、スクリーンに映像が映りはじめてもGOMAさんの演奏は続き、竹芝桟橋から東京湾へ視界が広がり、小泉今日子のナレーションが入り、映像とディジュリドゥの音色が絡み合って、ドキドキが高まる。そして小笠原へ出航する船の汽笛のボーッ!という鳴動とともにボーッとディジュリドゥを吹き鳴らして、演奏終了、余韻がCornelius「Surfing on Mind Wave pt 2」に溶けていく。 素晴らしくて、初っ端から涙ぐんでしまった…(早すぎ!)


以下、舞台挨拶中の発言 大意。
監督「オーストラリアで先住民がディジュリドゥで鯨と交信していた話を聞いて、GOMAくんを小笠原に連れてきたかった」
渋川さん「豊田監督に“鳥と交信しろ”と指示されて、どうしろと…」
ヤマジさん「新宿の地下室でエフェクターをたくさん使って出しているようなサイケデリックなギターサウンドが、小笠原の自然に合ったのがとても意外だった。そういう出会いをくれる豊田くんが好きです」

ヤマジさん、自分のコメントを言い終わると正面向いてジーーーーーっとしていて、他3人の会話に全く!!入ってこないのが、さすがヤマジカズヒデだった。普通は少なくとも体をそちらにむけて頷くくらいはするじゃあないですか。ポーズすら取らない、こういうところが、らしいんだよなあ(だからきっと……ねえ)、と心の中で爆笑した。あと取材用写真もね、ヤマジさんはカメラに魂抜かれると考えてるのか……笑
ちなみに作中、窪塚さんが貝を耳に当てたときに「何が聞こえます?」と聞かれ、「PLANETIST NEVER DIE」と言えちゃうところも、窪塚らしいし、さすがです。。


海は好きじゃないし、ガイアシンフォニー的世界観やグランブルーも苦手だけど、スクリーンいっぱいに広がる深い青の海の中でイルカと戯れるシーンは美しいなあと、私も潜ってる気持ちになった。現実には絶対行かない、しないことを映画では追体験できるのだ。夕陽も、岩礁も、緑も、小笠原にあるものはすべて美しい。
しかし自然への畏怖も当然あって、プロダクションノートで中村達也さんが「地球の、鼓動もなんも、かんじなかった。波と、夕陽と、戦った。つまり、まるで、愚か者のようだった」と寄せていたことが興味深かった。作中の演奏では鬼気迫るようにブッ叩き続け、圧倒されたけれど、達成感溢れる恍惚とした表情ではなかった。ヤマジさんは小笠原民謡「丸木舟」を波打ち際の岩場でギター演奏。最初の音色だけで、ああヤマジさんのギターだなとわかる。ギターの波動と海の波動、自然が生み出したものと人間が生み出したものが共鳴しあっていた。恐らく目の前の自然と対峙ではなく、どんな場所でもスタジオでの演奏と変わらないスタンスで鳴らしていた。スイッチが入る前に終わってしまった感じで、ヤマジさんならもっと深く深く高みへ行けるはずと思えた。
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美しい自然の小笠原を守ろう!とかそういう映画ではなくって、東京から船で出発して、遠く遠く離れたこの島で人や自然に出逢って、どう吸収するかは自分次第であり、出逢っては別れていく。太陽が昇り沈む、ただそれだけを繰り返すように。そう思うと、これまでの豊田作品と変わらないのだよね。個人個人の生き様を見せてくれた。
泣き虫しょったんの奇跡」でかつての自分を見つめ直し、本作で根源的な部分に触れた豊田監督はこれからどこへ向かう?ヤマジさんに音楽を全面的に頼む作品はいつ来るかなーともちょっと思うけど!