渋谷とロシアの空の下 〜「LETO」

渋谷駅の、長く続く地下道を歩いていると川底を進んでいるような気持ちになる。少しづつ気温が上がり、蝉の声が聞こえてくると出口のサイン。エスカレーターを上がり切って目に映る光景に息を呑む。ここで写真を撮るのはなと思い、目的地である、出口直ぐの映画館ビルに入って見下ろした。
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宮下公園。公園とはいったいなんなんだろね。強欲にまみれた資本主義の塊なんて表現をしてしまいたくなる。

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何度も貼っているこのシーン。映画は都市の記録としても重要だ。

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駅の南側のここだってね、一切合切消えてしまった。

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かつて死んだ眼差しで荒野が歩いたスクランブル交差点にはdipが流れているわけですが


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その向こうに出来た超高層ビルには、この3文字が定期的に浮かぶことに笑ってしまう。


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破壊の日! 豊田監督には今の渋谷を撮って欲しいな。


さて、映画「LETO」を見たことを。
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80年代前半のレニングラードを舞台に、実在したロックバンドを中心に描いた物語。ペレストロイカ以前のこの国では自由に音楽活動なんて出来やしない。歌詞の内容はチェックされ、ライブは公認の会場でのみ許可、客は座って声も上げずに演奏を聴かなくてはいけない。ロックのレコードは輸入が禁止されているので、オープンリールのテープに録音した音源を聴き、歌詞を書き起こして翻訳したりする。(ルー・リードに対する発言に笑った)肋骨レコードの時代は過ぎたものの、いまだにこんな状況のロシアのロックシーン。

映画としてはエピソードの積み重ね感が強く、退屈だなーってシーンと興味深いシーンが交互にやってくる印象で、もったりとしてたのが残念。途中寝落ちした……。
人気ミュージシャンであるマイクのバンドの楽曲は今もよくある(QUEでライブやってそうな)メロディアスなロックバンドな感じ。その下の世代であるヴィクトルはドラムがいなくなったことでリズムボックスを用いた楽曲を制作するようになり、ポストパンクの芽ばえ的な感じで面白かった。壁に並んだレコジャケ、エコバニがあったのが嬉しい。
劇伴としてのギターの音色にヤマジさんと共通のものを感じたのだけど、マイク役のローマン・ビールィクが手掛けたものだった。

イギー・ポップ「ザ・パッセンジャー」やルー・リード「パーフェクトデイ」を使いかたに驚きつつ、ふと、ヤマソロなライブを思い出したりした。そして中盤のライブシーンで、座ってた観客が湧き上がる光景に、今のコロナにおけるライブ状況が重なって、泣きそうになってしまった。

途中何度も「これはフィクション」と観客に知らせる狂言回しな場面があって、萎えてしまったところもある。ただ、監督は撮影後に反体制芸術活動で国に拘束され、1年半の自宅軟禁中に本作の編集をしていたと知ると、複雑な気分。この映画に描かれたのはソ連と呼ばれたかつてのロシアではなく、今と確実に繋がっているのだ。

好きな音楽を思う存分、自由に、聴いたり演奏したりすることができない。国が阻むのか、ウイルスが阻むのか、心ない人々が阻むのか。今の日本で公開されていることは偶然ではないと思えてしまう。豊田監督の感想を知りたいな。「狼煙が呼ぶ」「破壊の日」と併映したら面白いかも。