dip at que

12月26日土曜日。今年最後のライブは恒例のqueでワンマン。開催し、会場で見たことを心から有り難く思います。
  \ roadrunner/
キャパ削減で①16時 ②20時 の1日2回公演とはいえ、スタンディングで立ち位置のバミリもなく、前と変わらぬ結構な客入りに見えてびっくり。(といっても会社帰りの電車もこんな入りだよな…。)予告通り開場前のBGMとして、ナガタさんがDJを。ドラムンベース!体を燻らしながら豊田監督作「ポルノスター」で、緒沢凛演じるアリスがクラブで踊りまくるシーンを思い出した。


「EVA」1音目からオッと思わせるほど音が違った。締まったリズムはクッキリと、そこに乗るギターは流麗で、3人のバランスが良い。それで終わらないのがdipで、「夢を見るまで〜」のリフレインを心の中で口づさんでいると、ガーッと嵐が吹き抜ける。

1曲目の余韻がそのまま「underwater」の世界に染み込む。深海の底の青を潜行する秘密めいたダークさはなく、あくまでもqueのフロアで鳴っていて、後半のギターの気持ちよさはあくまでも冷んやりしながらもこれまでに無い広がりと明るさがあった。それとベースラインもドラムもめちゃくちゃよくて、ギターが作り出す網をぐいぐい引っ張ってく手綱のよう。1番最後のグイグイ進むとこ、すんごくかっこよかったなあ。痺れた。

「now gotta sun」この流れでこの曲!投げやりな切なさと乾いた気怠さは消え、しっかりと頼もしい歩みを持った音に乗せる歌声も、言葉の芯が伝わってきて丹念に歌を紡いでいた。言葉の届け方に戸川純さんの影響を感じた。そこに入るナガタさんのコーラスがとても良くてねえ。。「るーる、るーる、るーる」って呟きは夕陽の消えゆく様ではなかった。むしろ明日を感じた。

「fever」!この間のフランシスとの演奏も良かったけど、今回更にブラッシュアップされていた。いなたい雰囲気はfunmacine期を思い越しつつ、あの頃とは全然違った。フリーキーなギターワークがめちゃくちゃかっこ良かった。上田ケンジさんとのアルバムの影響もあるような。ベースラインとドラムとの密やかな息遣いもすごく良くて。この曲、私にとってはmarinegirlsのスカスカな、若さゆえの諦めな音が大好きで。ヤマソロに入った時とても驚いたし、今回も昔の音源聴き直して思い出したのかなーと思ってたのに、まさかの「ソロでやったの忘れてた」発言にズコー。

「hollowgallow」今回のアレンジは途中ギターの音色を盛り込みすぎに感じたんだけど、ghost riderがオンされてたのね……別で単体で聴きたかったヨヨヨ…。んで転調する、盛り上がれーってトコとのメリハリが弱くグハッと刺さらなかった。。けどその後の展開がスリリングでかっこよかったから良し。

そして「pinkfluid」ぎゃー!ベースがシャッキリしてて気持ちよかった!ドラムとともに深夜の振り子時計のよう。空間の抜けが感じられて、サイケデリックな音の作り方が今までと変わったように思えた。ギターの音色も多彩に変化した。宇宙を旅する音に浮遊しながら酩酊していると、「話し方を変える煙の中の人達が〜消えかかる陶磁器」ときて「ねじれた」ってとこでブワッと涙が出てしまった。マジでキモくてすみません。なんかもうどういうわけだか私の琴線に触れてしまう。今日の2回目の公演時はそこじゃなくて、最後の最後にベースがぐいっと出てきたとこで、泣いた。あああう。にしてもほんと、すごい歌詞だなー。

「みなさん良いお年を」ナガタッチの一言からのブリブリなベースラインはいつもの裏を突いた感じで「break on through」、3人の掛け合いというよりも殺陣みたいな音の組み合わせがカッコイイ。無駄が一切無い畳み掛けと凄み。フロアも我慢できずに声が上がる。で、スパッと本編終了。


勿論アンコール。「また来年いつかどこかで」とヤマジさんがさらりと言って、「my sleep stays over you」 ギターの波のグラデーションが美しかった。歪んでいるのに澄んでいて、風を感じた。塊で埋め尽くし突き進むのではない音。90年代前半の曲なのに、最新型だった。
2回目のみもう1曲、ナガタさんが「ニューイヤーロック!」とボソッと言って、笑いを誘ってからの「sludge」で締め!


マスクをして、入口で検温と連絡先聴取にアルコール消毒は「今の当たり前」になった。しかしフロアに入れば客数は通常より少ないとはいえスタンディングでいっぱいだったし、ドラムンベースが鳴っているし、「2020年のライブ」だとはパッと見思えない。誰もが語りたがるであろう「今年は」トークや配信でファンと気持ちや場の共有をすることもなく、世間の風潮に迎合することなく、今やるべきことの意志と表明方法は実に彼ららしい。だから私は年代がいくつも変わっても聴き続けているのだな。
ギター、歌声、ベース、ドラム、どれもが立ってひとつになって。素晴らしかった。MCがないのもいつものことだけど、今日の選曲と音像は今年だからこそのものだった。uminecosoundsやzzzooのサウンド構築、戸川純の歌心、上田ケンジやフランシスとのセッション、ヤマジさんのこの1年の活動の一つ一つがクルッと回って繋がっているし、ヤマジさんの閃きを支えるナガタさんとナカニシさんのタイム感は長年の賜物であり、今新たに生まれ変わっていた。今年は嘆きがちなはずなのに、とても健康的な印象を受けた。dipに対して使う形容と思えないけど。それと、ナカニシさんが髪を切ったらまるでC86でメリチェン期のボビー・ギレスビーのようでキャーキャー言ったわよ…

人に感染するウイルスが「音」だけだったらいいのに。全世界で進行中の状況はフィクションだと思いそうになるほどの、ただただ純粋に、dipの世界がそこにあった。それは懐古ではなく現在進行中の音であり、「ディス・イヤー・ロック」ではなく、「ニュー・イヤー・ロック」だった。