another LABO 7

3.27土曜日CLUB Queにてヤマソロ。ワンマンでゲストも無しの完全ソロはいつぶりだろうか。


フロアには椅子が並び、ステージ上には椅子・ギター・エフェクター・PC。冒頭からしばし、打ち込みのリズムが空間全体をグルグル巡り、その輪の中心にいるヤマジさんの自室での作業を見ているようだった。アルバム再発ヤマソロ(2007年下北440)では“ヤマジの部屋“だったけれど、今日は「工房=LABO」だった。5分ほど経過しただろうか、ギターで鳴らされた聴き馴染みのあるメロディは「エミルー」、ウッと胸を突かれてギターの波にざぶん、と溺れる。今日は“撮影録音禁止“のため、点在する光が無いフロアは黒い海。闇の向こうに浮かぶヤマジさんの灯火(Le Feu follet)を眺めながら、ブクブクと深い海に沈んでいった。冷たいビートを感じながら。
1曲目から涙が溢れてしまい震えていたのに「sunday puffce」「ダージリン」「ハルシオン」と続くもんだから、殺す気か!さめざめと泣いた。マスクが防波堤だった。


「12月の雨の日」のカバーは久々。この流れで演っても色合いが変わらないのがすごい。丹念に唄われ、ギターは一層ギュインと唸る。後半に「粘膜の宇宙」が入り込んだからそのまま移行するのかと思ったけど、そうならなかった。the seedsも久々だな。なんだか色々思い出してしまう。『ベラちゃんに作った曲』と告げた新曲は今日の楽曲群の熟成さと異なり、青く剥き出しで大切に紡がれる。昨日見た“俺の家の話“の、舞台上での会話シーン思い出しちゃったよ。
そして次は「クロウル」!!!ああ!!dip UKP1stの大好きな大切な曲を今ここで聴くことが出来るなんて。『声が出ないかも』と言いつつも誤魔化すことなく、左手でリズムを刻みながらしっかりと歌ってくれた。記録見たら2005年3月dip以来なのかな。あのライブ前に「一時休止」宣言があったなあ。16年も経った今も廻り続け、その輪を予想外に広げながらも上昇していることに驚き、感謝し胸がいっぱいになる。更に「オモト」「天使」と続き、殺傷能力が高すぎる。


若い時の曲を枯れることも楽な方へと流れることもなく、当時の青さをきちんと残したまま、今の自分の経験を踏まえて地に足をつけ、実験と挑戦を試みながら責任と意志を持って、演奏し歌う様が素晴らしかった。周囲が変化しても「自分の時空」で弾き続けているからだろう。だから腐ることもなくデッドストックにもならず、聴き手が持つそれぞれの時間に沿って鳴り、胸に響くのだ。昔住んでいた部屋を思い出したけれど、懐かしいとかあの頃に戻る感覚は無く、今この時と並走していた。


活動の幅が随分広がり、立つステージが多様になったところでコロナ禍。部屋でも樹海でもなく13th floorでもなく、「工房」での1年が反映されていた。新しい生活様式を模索するのではなく、今まで通りに。そして時間を掛けて紡がれたことで納得度と完成度が高く、今までとは確実に違う。緊張感はなく、ゆるいこともなく、MCで誘う笑いのバランスも良い。


アンコール、「ここまでは練習して頑張ったから、あとは楽をして」と言ってP-MODEL「another day」、ぐうんぐうん畳みかけて進んでいく。ヤマジさんがやるとヤマジさんになるんだなー!オルタナなバンドの、転がってく曲みたいだった。そしてルースターズ「good dreams」、最後の最後にヤプーズ「ヒステリア」。ヤマジさんが完コピしたオケにギターソロでまさに「御本人登場」。



常々、ライブでの音の拘りを見るたびに、ステージ上で演者が直に聴いてる音とフロアでPAを通して聴く音は違うしなあともどかしかった。そしてヤマジさんが部屋でヘッドフォンして聴いてる音とも違うしなあとも。しかし今日は、ヤマジさんの頭蓋骨に響いているギターの弦の音色が聴こえた。ぶおん、と私の頭蓋骨に響いた。ヤマジさんの体内に巡る音が伝わってきた。

今回の音響を踏まえれば録音撮影禁止にしたのは納得だし、客席が落ち着いていたのも良かった。ふと昔のライブの黒づくめのフロアを思い出した。ネットに動画が上がることで行けないファンも喜ぶ図式を否定はしないし、私も恩恵を受けているけれど、ヤマジさんが納得のいく音響で録音してbandcampで販売する方が健全なのでは。配信の音響に懐疑的なのはわかるし、頻繁にライブ出来ない今、収益として真剣に考えて良いと思う。PAに中村宗一郎さんやZAKさんを迎えたライブも見てみたいな。
ヤマジカズヒデ55歳。この一年で聴かせてくれる音がますます楽しみです!!