橋の袂で

年末年始休暇初日の散歩は途中入り込んだ暗渠を進み、コンクリートに埋まった橋を眺めていたら「そうやって見てる人いるんだけど、珍しいからかしら」と話しかけられた。ここで長年暮らしている女性だった。


「私はここにお嫁に来たんだけど、昔は川が流れてたのよね」
「この家は100年近く経つんだけど、当時はこの家以外周りになんにもなくて、お義母さんが言うには梟が鳴いてて怖かったみたいよ」
「家のつくりが頑丈でね、最近の地震でも全然揺れないのよ」
ーーー外壁はリフォームされ、家のまわりは掃除が行き届き、こまめに手入れをされていることが伺えた。
「まあ、畳を定期的に変えたり、大変だけどねえ」


「夫は倒れちゃってね、右半身麻痺になったのよ。先生にね“1人でトイレに行けるくらいにはしてもらえませんか、後は私が何でもやりますから”ってお願いしたの。そしたら本人が頑張って、今では散歩にも行けるのよ」
「私は何にもしてないけど、でも、だって、夫がいなくなったら私嫌だもの」


「よく、つらいとか苦しいだなんて言うでしょう。最近は1人でたくさんの人を巻き込んじゃったりするでしょう。でも、生きるなんてつらいことなんだから、日々の中で楽しいこと見つけなきゃね」


「あら私、あなたにすっかりいろんなこと話しちゃったわ、ごめんなさいね」
「今はコロナでアレだけど、あったかくなって落ち着いた頃にまた寄って。お茶でも出すわ」
と名乗ってくださり、私はお礼をして名前を告げ、良いお年をと言ってお別れをした。


表情は終始にこやかで、ご苦労も多々あったであろうこれまでの日々を謙遜し、周りに感謝して暮らしていらっしゃることが伝わってきた。そんなお人柄が笑顔に刻まれている。素敵な生き方だなあ。
今年の最後にこんな出来事。幸せだなあと、自分でもわかるほどニマニマしながら再び歩き始めた。