クリエイション・ストーリーズ

10年以上前、「アップサイドダウン」を見た時に私は感想をこう残していた。

mikk.hatenadiary.jp
・「クリエイション・レコーズとはアラン・マッギー自身」であり、だからこそ素晴らしいバンドが一本筋を通って数多く所属し、土台はブレなくとも「時代とともに変化していた」のだなと改めて思うのです。
・「音楽性が一貫している」のではなく、そのときのアラン・マッギーの「出逢い」こそがレーベルの全てであり、彼の人柄が「音楽を呼び寄せた」のだ。そこに魔法があった。彼はレーベル・オーナーである前に純粋なるリスナーだった。


まあ、今回「クリエイション・ストーリーズ」を見ると、アラン・マッギーの人柄はサイテーで、純粋なるリスナーなんて部分ひとかけらも無いんだけど!見たもののイマイチ感想を書く熱が上がらないという時点で私の体感が伺える。トレインスポッティングは観る気が起きなかったし、今作のドラッギーなシーンもインタビュー受けながら回想するというテンポにも乗り切れなかった。この映画はレーベルを立ち上げるほど音楽を愛した人を描いたものではない。彼の家族と、彼を取り巻く仲間たちとの出会いによる話だ。父親の描き方は古き時代の象徴で、だからこそ脚色だというラストシーンに至るのだろうか。若い頃のエピソードから伺える彼のひととなりが出会いと成功を生みながら、時代の喧騒に呑み込まれてしまう哀しさがあった。


m.youtube.com

Television personalitiesが人生の分岐点として描かれる映画があるなんて!あのシーンめちゃくちゃカッコよかった!エド・ボールが各所でポイントになってるのにも、ありがとうありがとう。まあねえ、レーベル立ち上げてメリチェン*1で一躍話題になるに至る時代をもっと観たかった……。思い出したのは写真集「a scene in a between」で、アノラックとかシャツの着方とか、心の中でワアワアしてた。あの時代のイギリスをもっと見ていたかったんだヨ。。。

メリチェンのライブの爆音っぷりとか、マイブラのレコーディング話など、ロッキンオンなどで散々目にしてきた「ロックスターの面白エピソード」がバラエティ番組の再現ドラマ状態で登場し、各ミュージシャンが"そっくりさん"めいてるのに笑った。ディック役の人、「this is england」のあの子なのかー!

THIS IS ENGLAND [DVD]

THIS IS ENGLAND [DVD]

  • トーマス・ターグース
Amazon


国鉄で働きながら事務所で告知チラシやZINEをつくってるシーンが出てきたけど、そのあたり「My Secret World」では重要な描き方をされていたものの、アラン・マッギーが懐古するにあたっては重きを置かないってことなんだろうなあ。サッチャー政権での補助金制度を利用してサラレーベルが作られ、クリエイションは立ち上げたものの傾きつつある会社を持ち直したのも興味深い(追記:資金繰りが大変で、と描かれていた記憶だったけど、こちらのサイトHistory – Creation Recordsを見ると「83年 McGee は、レコード レーベルを設立するために £1,000 の融資を受けます」とあったので、サラと同様に新規事業としてレーベル立ち上げ費用に使ったってことで良いのかな)。で、ブレア政権な。そんな展開を2022年10月22日、イギリスの社会情勢を知りながら見るというのはなかなか・・・

(追記:補助金制度、Twitterで教えていただいたのだけど、Enterprise Allowance Scheme - Wikipediaによると、「自分のビジネスを立ち上げた失業者に週 40 ポンドの収入を保証」「1983 年に全国的に導入され、 Creation RecordsのヘッドであるAlan McGeeを含む 325,000 人に資金を提供しました。」と記されている。)



にしてもoasis前夜までが自分にとってはハイライトだなとつくづく。私がクリエイションを意識したのは90−91年、RIDEだのマイブラだの現在進行形をオンタイムで音楽雑誌やBEAT UKで享受しつつ、フリッパーズが語る初期クリエイションのギターポップな側面にも「同時に」出会ったからで、これを老人の黄金時代の良き思い出と語ってしまうのはやむを得ないと思うの・・・(言い訳)。映画でもLoveless/Screamadelica/Bandwagonesqueの3枚の赤い色調のポスターが並ぶシーンには心昂ぶらずにはいられない!

・・・当時CDで買ったアルバム、レコードでも買うことってあんまり無くてこの3枚ですら持ってない。にしても91年はオソロシイ年だわよ。
mikk.hatenadiary.jp

(追記:さあ、泣くがいい・・・ → 1991 – The Year Creation Broke – Creation Records



冒頭に挙げた「アップサイドダウン」の感想でも書いたように、『初期は荒削りなパンクでサイケでポップな音、中期はシューゲイザーでダンス・ビート、後期は王道な英国ポップ・ロック、などと無理やり言ってみるけど、クリエイションというレーベルの音の印象はハマった時期によって違う』というのはやっぱりそうで、カジくんとホリエさんのポッドキャスト"BLUE BOYS CLUB RADIO"で面白かったのが、カジくんがRazorcutsなどのギターポップ〜プライマルの初来日(ヒステリックグラマーのTシャツ!)をアツく深く語るのを、「ボク全然知らない」とふむふむ聞いていたホリエさんがSUGARを「強いギターポップ!」とこれまでに無かった熱を持ってアツく語ると、カジくんが「ボクにはギリギリだけど笑 DJでよくかけた」てくだりが象徴的で、クリエイションは時代と好きなバンドで印象が異なるし、バンド自体はそんなにだけどDJでかけたくなる時代の熱を感じる。
open.spotify.com


私が好きなクリエイション・レコード5枚

Wild Summer Wow

Wild Summer Wow

Amazon
Palace in the Sun

Palace in the Sun

Amazon
って、コレらを挙げるのは反則なので・・・


Tender Pervert

Tender Pervert

Amazon
Nowhere

Nowhere

  • アーティスト:Ride
  • Warner Brothers
Amazon
In the Presence of Greatness

In the Presence of Greatness

Amazon
Copper Blue (Deluxe Edition)

Copper Blue (Deluxe Edition)

  • アーティスト:Sugar
  • Edsel Records UK
Amazon

ううううううん、、勿論、アレもコレもと挙げる時々で変わるけど、クリエイションスープな初期面々はお兄さん的なトコがあるので端折るとし、89-92年の思い出が走馬灯のように浮かびながら思い入れで、断腸の思いで選出。ある意味私の雑多な嗜好が現れているのではなかろうか。

*1:さあ、あなたはThe Jesus and Mary Chainをなんと呼びますか?①ジーザス ②ジザメリ ③メリチェン(このネタ何度目・・・)