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前回のこちらに続いて、金沢の記録をもうひとつ。
www.library.pref.ishikawa.lg.jp
2022年7月に移転・開館した石川県立図書館は、話題以上の素晴らしさだった。
※公式サイトに「個人的な利用が目的での写真撮影は申請等は不要・他の利用者の顔を写さない/フラッシュを使用しない/電子音を鳴らさない」の記載あり
入った途端のこの光景に息を呑む。円形の空間は4階まで吹き抜けで、スロープに沿った書架にズラリと蔵書が並ぶ様は圧巻!『好奇心を抱く』など「本と出会う12のテーマ」が『面出し』されることで、本の「顔」と向かい合い出逢いながらぐるりと辿ると、私の興味も思考も横に広がっていく。勿論通常の図書館同様に日本十進分類法に基づいたコーナーもある。
また、入り口には石川県の伝統文化を手始めに、山〜里〜海へと広がり深掘りして書籍が並ぶ『里の恵み・文化の香り~石川コレクション~』があり、暮らす人々にも観光客にも発見を与えてくれる。地域文化を伝える企画も日本十進分類法であったならば、書架が点在してしまう。
館内のコンパクトでわかりやすい説明。
会話OKを掲げながらサイレントルームも設置。また「こどもエリア」には遊ぶスペースもあるし家から持ってきたものを飲食可能な机もある。でも館内は騒がしくなく、静かでひとりひとりが図書館という場を理解して過ごしている印象を受けた。
公共施設の在り方を巡り、図書館を核とした複合施設で「賑わいづくり」を目指す自治体が増えている。建物を作ったことで安堵してはこれまでと変わらず、問題を繰り返すだけだ。どのように運営し維持していくか、そのためには何が必要か。
>建物の規模を拡大する以上、たくさんの県民に来てもらえる図書館にすることが至上命題でした。普段図書館に行かない方も、本を読まない方も、「行ってみようか」と思うような図書館にしたい。
図書館に行くことも本を読むことも当たり前のことと思っていたけれど、そうではない人もそれが出来ない状況の人もいるのだし、税金を使う以上すべての人に認めてもらい、様々な用途を持たせないと継続が出来ない時代だ。
>全国的にみると、近年の公共施設の整備では、同じ建物の中に、図書館があり、その横に博物館や交流施設があるような、機能を複合させることも増えています。当館は、そのような複合化ではなく、一つの屋根の下、図書館という単一の用途で、いろんな「知」や「体験」のあり方を追求して多角的な魅力をもたせた施設です。
カフェもあるけどスタバではない。イベントごとに対応可能な屋内広場や3Dスキャンのある工房などがありながら、お膳立てし過ぎることがない。全国各地に増えている「話題性のある」図書館にありがちな「みんなの」的遜った感覚がなく、あくまでも堂々と威厳ある佇まいを持ちながら、楽しい広がりと隙間があることが嬉しい。
基本構想策定に携わった、石川県 県民文化スポーツ部 文化振興課 嘉門氏の経歴が目を引く。ディズニーにいたという点が興味深い。
>大学卒業後、安藤忠雄建築研究所、A.T.カーニー株式会社、ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社を経て2014年入庁。2016年度より行政職として新しい石川県立図書館の計画および建設に従事し、基本構想策定、基本・実施設計、展示設計、家具デザイン・監修、サイン計画などハード面全般の整備を担当。
発注者である県が「外部運営者へお任せ」ではなく、担当職員が全体を統括出来る視点の持ち主であることが大きい。
>2022年4月に石川県図書館条例が施行され、当館はそれまでの教育委員会から知事部局の文化振興課へと所管が移されました。名実ともに、美術館や博物館、音楽堂と並ぶ「文化施設」に位置付けられることで、庁内の他の部局や、他団体と連携したりすることがより柔軟に、機動的にできるようになりました。
県立図書館が教育委員会から外れることで、これまで運営側で当たり前のことに変化はあるだろう。そこに、ただ「建てる」だけではなく、今後どう運用していくかを考え行動した覚悟を感じる。元々「文化度の高い」街という自負もあり、行政と県民がお互いを信頼し期待していることもあるのではないか。
www.library.pref.ishikawa.lg.jp
公式サイトのこのページが好き。
設計を担当した株式会社環境デザイン研究所会長 仙田満氏のインタビュー。採用されたプロポーザル案を踏まえ対話を重ね設計変更により完成したことがわかる。
さて、県立図書館の最新型な様子から、市立図書館へ話を移します。
www2.lib.kanazawa.ishikawa.jp
金沢市立玉川図書館 竣工:1978年 総合監修:谷口吉郎、設計:谷口吉生。
唯一の親子共同作。
美しい錆色!
>本館の外壁にはコールテン鋼が使われています。コールテン鋼は、表面に緻密な錆が形成されることにより内部が保護され、錆の進行を抑えるという特殊な素材です。年月により色味が変化していくところまで計算されています。
上記公式サイトより転記。
ああ、もう、単純に私の好みの佇まいで静かに興奮。洗練された様が美しい。好きだなあ。
左が市立玉川図書館、右が近世史料館。
元々この地には旧専売公社の煙草工場があり、大正2年に完成した時代を強く反映した赤煉瓦のクラシカルな建物は、昭和47年に工場が移転となり取り壊しが行われた際に1棟のみ金沢市に譲渡され、金沢市立図書館を移転し新築開館と合わせて、図書館別館として保存・改修。加賀藩の藩政文書である「加越能文庫」を中心に貴重な古文書が保存・活用されている。
引用・参照元は以下サイトより。
www2.lib.kanazawa.ishikawa.jp
www.waseda.co.jp
金沢市立図書館の外観を赤煉瓦に合わせて赤錆色にし中庭は煉瓦敷きにしたセンスが素敵。
月曜で休館日のため中は入れなかったけれど、折下雨上がりのしっとりした空気の夕暮れ時で、隣接の公園との雰囲気も相まって良い空間だったなあ。暮らす人々には当たり前の空間だろう。けれど、こういう空間に日常的に浸ることが街をつくりだすのだと思う。
前回記した「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」では吉郎の著書「雪あかり日記/せせらぎ日記」に関する展示も嬉しかった。あの冷静で丹念な描写は彼の仕事ぶりそのもので、図面も原稿も推敲がかなり多かったらしい。この図書館は「親子共同制作」だけど吉郎は病床にいて、息子への指示や確認も細かく行なわれたものの、竣工直前に亡くなった。しかし故郷金沢へ彼が託した想いは今も金沢らしさをつくっているのだ。
最後にもうひとつ。
www2.lib.kanazawa.ishikawa.jp
www.japan-architects.com
金沢海みらい図書館 竣工:2011年 設計:シーラカンスK&H
金沢駅から線路沿いに5分ほど歩いた先のバス停から、チェーン店に工場や田畑が点在する外環状道路を進んでいく。この辺りは再開発により人口が増加したエリアであり、嘆願書により図書館が建設されたそう。バスを降りて路地を入ると突如バーン!と表れるこの建物に驚かされる。ふっと空からやってきたかのよう。
パンチングウォールが印象的な白いハコ。内部は壁面の丸穴からやわらかでやさしい光が広がる空間は2〜3階までの吹き抜けで、1日の中で/季節の中で印象が変化しそう。無色で寂しくて柔らかで優しい、この感覚。金沢21世紀美術館と共通する、ゼロ年代の空気を纏った建築物だなあ。78年竣工の玉川図書館との違いが面白い。この図書館で過ごした時間もまた、これからの金沢市をつくっていく。
www.mita-hyoron.keio.ac.jp
公共図書館の在り方が議論される昨今、金沢市が長い歴史の中で育んだものの豊かさに驚かされるとともに、竣工された各時代の空気を保ちながら、今の暮らしに息づいていることを感じさせる3館だった。