live at que 〜 TOCT Re-issue 発売記念

先日発売された東芝時代のアルバム再発記念ワンマン。なんと前売り完売、中はギッシリ。開演前はずっとピアソラ*1がかかってて意外だったなあ。
客電が落ち、スクリーンに昔の雑誌記事やライブのチラシ(ヤマ字の。曲目書いているやつとか)が映し出され、それに対してドッと沸くでもなく固唾を飲んで見守るよな場内。そしてSEがルー・リードに変わり、メンバー登場。


素晴らしい演奏がめくるめく続いた2時間。「東芝縛り」と言っても最近も演奏している曲が多いので、暫くやっていない「My sleep stays over you」聴きたかったなーってのもあるケド、そんなの言ってたらキリがない。
何よりも、1994〜99年というほんの一時期の楽曲が「懐古」にならずに「2012年の音」で鳴り響いていることが素晴らしかった。そして観客の熱も凄かった。
双方の熱をまず実感したのは「faster,faster」、ぐんぐん熱せられてラストのラウドな数フレーズでぎゅっと高まって、体の底からぐわっと持ちあげられたところでスパッと曲が終わり、それと共に熱がしゅんと冷める…と思いきや、たくさんの観客が体内に受け止めた熱をワアァ!とステージに返す、その瞬間に場内に満ちた多幸感というか、たくさんの「dipへの思い」に包まれてぐっときてしまった。


何年ぶりかにdipのライブを見に来た人も多いと思う。仕事や家庭の事情も勿論あるけれど、また見に来て欲しいなあと思う。今日のライブの凄さは「東芝時代の楽曲だから」ではなく、「今の精神力と演奏力で打ち出された音だから」カッコイイんだって再認識したと思う! 今日だけじゃなく、ライブはもうずっと、カッコイイんだぜ! 以降のアルバムの曲、「bent your head」も「it's late」も「feu follet」「after loud」もカッコイイよッ。
去年club 251のときに記した「(「dear prudence」が演奏されて)昔の曲に昔の自分を思い出してなんてのもあるのは否めないけど、それは今ここで確かな音がまっすぐと今の音で鳴っていて、それを受け止める私も今確かな日々を暮らしているからこそ」って、改めてそう思う。

dipのライブに走る緊張感が好きだ。ヤマソロなどサイドワークには無い張り詰めた糸が根底にある。この「糸」に私は勝手ながら、ヤマジさんのdipに対する敬意というか「フロントマンとしての自負」を感じていたのだけど、帰宅して読んだこのインタビュー*2、「dipをやっているから自分でいられる、つまり自分の存在理由としてのdip。それは今もそう思っている」ってヤマジさんの言葉にもう、感涙…。そして「夢の中から現実に出て来て、現実ってかなり楽しいんだなって」ってこんな言葉を目にするなんて…!


まだまだ延々続くので(既にこんなに書いてんのに!ヒンシュク。すみません…)タタミマス。


1曲目は「lillac accordion」! ピンと張った静寂から放たれるイントロは、一瞬にして空気を変える。そう、これこれ、この瞬間が、dipだ。デビュー当時はテーマ曲のような印象があったなあ。 そして「不規則な断片の反復の地下鉄」、タイトルもめちゃめちゃ好き。暗い地下鉄の”チューブ”をうねうねと高速で走り抜けてく。
「garden」 「delay」「冷たいくらいに乾いたら」ではこころのなかで歌いまくるワタクシ。キラキラした楽曲が続きます。この頃MCが流暢になってきたヤマジですが(ふふふ)、本日は元々のモードに戻ったようで言葉少なだけど*3、「懐かしいよね…」とつぶやいたり、客の「カッコイイ〜」って声に反応したり。

そして、「fall in holy」! 大好きな曲。優しく眠りに就かせてくれるよな柔らかさで爪弾かれるイントロに、目を閉じて反芻する。刹那な永遠を望むこの世界観を決して壊すこと無く、しかし重ねた歳の強さで旋回し刻まれてゆく音は感傷だけで終わることがなかった。この曲と「human flow」のベースラインがとっても好き。 共にクジさん(素敵な女性!)のkeyが絡んで、広がりが増し、モダンでカッコイイ。2ndのころを思い出しつつも、若い時には出来ない音触だなあ。次に「studio」、 そして「sasa says」! エエッもう?と思ったけど、「シンキバ」の再演とばかりに繰り広げられる音絵巻。気持ち良い〜。これだけで数十分やって欲しい…。

ここで再び3人に戻って、「pink fruid」わーこの曲も大好き!歪みネジレて拡散していく。何処に行くのかわからないけれどワクワクする、旅をしているような気分。続いて「nerve-a10」!炸裂!すっ飛ばし、突っ走り、何処までも果てまでも、スリリングなドリフトで頭のなかが真っ白になる。

少し間があって、スクリーンからヒトラーの演説が流し出される…。からだがピクッとして、そこにギターのあのフレーズが被さる!そう、深い淵から重く重く鳴り響くあのフレーズ。13階段への荒野」。涙が滲んでしまった。目に浮かぶのは空っぽの荒野、ただただ続く道なき道を走る1台の車、ナイフの雨、、、。今ここで奏でられる音の逞しさ。途中下車したり迷走したけど、乗り捨てたり崖から落ちることなく進んだからこそ、漸く辿りついた場所に立っている。あの頃と今日がきちっと結びついていた。どちらを否定することも懐かしむのでもなく。この曲はいろんな意味でとてつもない力を持っている。そんなこの曲に続くのが「lust for life」なんて!
バシッとキレタ音は再び動き出し、浮遊し、形になったときに驚いた。「アイル」だ! 旋回し徘徊する音は儚くて、でも確固とした芯がある。”the inner light”から”7:47”に雪崩れ込む!うわ、うわ、うわ!混沌とした極彩色の、生と死が入り混じったよな音像の密度の濃さ、厚み、凄み!ギターとベースとドラム、この3つから音が滝のように溢れ、からだ全体が絡めとられてわけわからなくなってくる。茫然としていると"you doo rightttttttt"とヤマジさんはギターの手を止めて(!)咆哮する。頭を突き刺され、放りだされてしまった。


冷めやらぬ熱狂のなかでアンコール、super lovers in the sun」、さっきまでの”異空間”が一転、keyが入ってより一層キラッキラと輝く。
そしてヤマジさんがベースを持ち!ナガタさんが唄うはP.i.L.「public image」!お祭りっぽくて楽しいッ。
それからもう一回アンコール、勿論来るよね、ヤマジさんがドラム!でナカニシさんが唄う「come out」、ヤマジさんがドラム叩くの好き。前は手刀のワンマンのときだったっけ? メンバーも観客もいい雰囲気。本編の近寄り難いくらい壮絶で突き放された音とはがらっと変わって、このバランスがいいな。

シメにはやはり、「sludge」! ここでヤマジさんがギタートラブル発生? ところが「こんなもの(部品?)なくてもギター弾けるんだよ!」と捨て台詞、「カッコイイ〜」と我等は痺れるのであった。


dipが「自分の存在理由」であるならば殊更に、わからなくなったり投げ出したくなることもこともあっただろう。でも今ここで鳴る音がある。この確かな存在感。いつからかギターは鋭さと共にたおやかさを蓄え色彩に溢れ形を広げ、その変幻自在さを支えるベースラインには相性の良さがあり迷いがなく、ドラムはバランスが良い重さで気持ちよく間を抜けてゆく。
先日発売されたquipマガジンでの発言によれば、「多分売れているバンドはフロントマンがそういうの(こういうことをやりたいというヴィジョン)を明確に持っていると思うんだよね。」でもdipは「そのときやりたい曲をやるだけ」…うん、だから私はdipが好きなんです*4


6月にはなんとトリビュート盤リリース!そして、新譜が楽しみ!それと豊田監督によるライブ映像を夢見ています。


関連として最近のライブ感想などをピックアップ。

勢いついでに好きな曲も挙げてみたってコトで、↓ へ続く(まだ書くのかよ!)

*1:違ってたらスミマセン

*2:http://ototoy.jp/feature/index.php/2012060100

*3:「ロックスター然」で語りだしたり友達口調のMCする人たち苦手…

*4:”演奏することが「自己アピール」ではなく、「音楽を聴いたり演奏することが好き」という純粋な気持ちから始まっていて、それが今も(ここが重要)続いているように思います。案外そういうバンドって少ないと思うのヨ。"具体的なこと"を叫んだり語りかけることもない、ただ、弾くだけ。私はdipのそういうところが好きだ”「再発にあたって」より