「お茶漬けの味」

お茶漬の味 [DVD]

お茶漬の味 [DVD]

神保町シアター小津安二郎特集、今宵は「お茶漬けの味」。昭和27年の作品。当時の風俗を知るだけでもとても楽しかった。冒頭の、タクシーに乗って日比谷のお堀端を進み帝劇が見えているシーンからしてウワー!と嬉しくなる。野球に競輪にパチンコ、ラーメン*1に煙草。人々が戦争の跡を超えて「暮らしを楽しむ」姿が伝わってくる。小道具のディテールにその人や時代が表れていることも。
全体的に奥様を揶揄してるようで、キリキリイライラしている小暮美千代のキツい表情に同性としてツラくなる部分あり。でもラストでとてもやわらかい表情に変わるんだよねえ。恋してしまった顔。夫役の佐分利信がとっても素敵で、余裕がある抜けた感じがいいなあ。お嬢さん育ちの奥さんに下に見られているけれど、結局おおらかに包み込んだところが上手だねえ。夫に分があるように見えるけど、映ってない部分で彼にもイヤ〜なとこ(田舎臭い!とかそんなんじゃなくて)あるんじゃなかろうか。恐らくは再び仲違いすると思うけど、二人でお茶漬けを用意したあの感覚を思い出して仲直りして、を繰り返して歳を取っていくのだろう。しみじみ。
鶴田浩二の飄々として頼りないさまもよかったなー。
展望列車が鉄橋のある川を渡り遠ざかっていくシーンの疾走感に胸が高鳴ったけれど、後半おなじみの、誰もいない家内をゆっくりと映し出す静寂さにはやっぱり胸を掴まれる。今思い返すとこんなシーンの配置にも全体としてのバランスが感じられる。
夫婦の在り方を描いた物語であるけれど、ふと、シーンのカケラが浮上したり繋がったり、ちょっと奇妙に思ってはフムフムしたり、ああさらさらと流すように食べるわけにはいかないなと、こうやって書き留めながら再認識しています。

*1:支那そば」でも「中華そば」でもなく「ラーメン」!