ブルー・プラネット・スカイ

(金沢の旅記録を続けています)珈琲飲んで一息ついて空を見上げる。青かった。朝はどよんと白かったのにね。すでに3時を回り日はやわらかくなっていた。
そろそろ21世紀美術館に行こうともう一度向かった。

真っ先にタレルの部屋へ。深呼吸。

青い空に白い雲がぽこぽこ浮かび流れていく。
さっきとはまるで違う!なんていうか開放感がある。思い返せば朝はからだを大きな白に包まれていて、なんにもない真空状態で閉鎖的だった。今はぐいんと天高く抜けていくような感覚がある。
この間ICCで見た「LIFE - fluid, invisible, inaudible ...」を思い出した。あの暗闇に浮かぶ白い空。しかし今私が見上げるのは現実の空。プログラミングなしで変わり行く空。

館内の有料スペースへ。350円という観覧料は安い。これならば気軽に「立ち寄る」ことができる。この美術館は「まちに開かれた公園のような美術館」がモットーとのこと。タレルの部屋、あれ無料スペースだものね、あそこで待ち合わせなんていいなあ。
さて館内は部屋ごとが作品といった趣で作品数が少ないうえに私の好みではなく、ううむ。ぴんとこないのでさくさくと見て地下へ潜る。

レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」。

はっと息を飲む。この仕掛けはずるい。プールの底から見上げる光景はぐにゃんと歪み空は空でなかった。美しいというよりもキレイだった。人が見えた。見ず知らずの人だけど偶然居合わせた人。彼らは笑みを浮かべてこちらを見下ろすがその姿はぐにゃんと歪んで見える。私たちは向かい合っているけれど決定的な時空の差があった。でも本来そんなものなのだ、ただそれがわかりやすく見えただけだ。
夕方近くの光線はやわらかく降り注ぐ。もっと晴れた強い光が差し込むときだったら受ける印象が変わるだろうな。
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日がおちてゆく。タレルの部屋の隣は広いスペースになっていてちょうど西を向いていた。

こんなに美しい夕陽を久しぶりに見た。今日がたまたまそういう日なのかああいう作品を見た後だからよけいにそう感じるのか。金沢の夕陽。空は青さを残したまま太陽は視界の地平の下へじゅううっと沈み闇がじわりと立ち上ってきた。マゼンダはほとんど混じらなかった。

もういちどタレルの部屋に行く。少しずつ暗くなっていく様を頭のうえからいっぱいに感じ取った。

金沢21世紀美術館。充分に満喫した。ここで深々と息を吸った。
でも敢えて記しておくことがある。この美術館のこの建物は確かに美しい。抜ける白さ、繊細な曲線、椅子の配置・・・。しかし私にはPCのディスプレイ上のハコがそのままここに在るように思えた。これを建てた大工さんの姿を思い浮かべることはできず、自分がディスプレイの中に入り込みCGのなかを彷徨ったように錯覚してしまう。デスクトップ上からプレゼンのスクリーンへ、エンター押したらぽん!と金沢のこの地へ出現したように思えてならなかった。ここに限らず最近の建物からは(電車の車両も)そういうニオイがするんだけど、時がたち馴染むものだろうか。

そう思いながら何度も後ろを振り返ってこの場所から去った。