「止まれ」といわれなくても立ち止まって見上げてしまう。
「名所」と呼ばれる場所での狂おしく乱れる重なり合いにも圧倒されるけれど、歩いていて角を曲がるとにゅっとあらわれる一本の桜の佇まいにもぐっとくる。満開の桜はその場の風景を変えてしまうなあ。
電車と桜と「坂道」も素敵なトリオ。
お母さんに連れられた3歳くらいの女の子、桜の木を見上げながらこんなことを言っていた。
「神様おねがいです、さくらの花を散らさないでください。」
ふわふわと舞い上がる桜の喧噪をちょっと離れて神の住む杜へ。
見事な一本桜があるかしらと思いつつも見かけなくて、がたんごとんと電車が走る音が聞こえるなか鬱蒼と茂る樹々の下、木漏れ日を浴びながら歩いていた。
葉と葉がつくりだす空白のかたちが変化するのが楽しくて、陽の角度で色が変化するのが楽しくて、これから緑が濃ゆくなる、いちばん好きな日々がやってくるのが待ち遠しい。