iTunesと映画館と稲妻と。

ノア・バームバック監督の新作(といっても去年の)が日本公開もせぬまま、DVDリリースでもなく、iTunes Storeで観ることが出来ると知って、驚きました。今更なに言ってんの…と既に観ているひとには思われるだろうけど。「イカとクジラ」はLUNAのディーンさんがサントラ担当したことがキッカケで見に行ったけど、今作のサントラはLCDサウンドシステムの人なのね。で、Galaxie 500も使われていた。ふふふ。ノア・バームバックさんとディーンさんは世の中を見る目が似ている気がするのだな。

Greenberg

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それにしても「映画を鑑賞する」ってこと、これからどうなるのだろう。「映画館へ行く」ことが「観る」よりも「体験する」意味合いが強くなり、また「特権」として住み分けられている状況がある。そして「レンタル」に出掛け/返却することも「モノとして所有」することも「手間」となり、「見たいときに・その場で」観ることが可能になって、映画館で上映することすら最早想定されておらず、作品はどこかの「雲」のなかにある。映画に限らず、音楽も書籍も同じ問題を抱えているわけですが、やー、なんかも、ボンクラには訳わからん状況ですよ!
東京に住んでいるので映画館で観る状況に恵まれているのですが、単に私の場合、おっきな画面で見たいなーってのと、ウチで見ると寝ちゃうんだよね…。


そういえば見た映画の感想をなかなか書き留めていませんでした。
一番強烈だったのは「稲妻」、言わずもがなの成瀬巳喜男監督作品。神保町シアターの「女流文学全集」にて上映された本作、恥ずかしながら初見なのでした。しかしこの歳で初めて見たのは正解だったかもしれません。家族と社会の狭間で苛立ちながら葛藤する、高峰秀子演じる末娘が置かれている立場にピンと来ないわけもなく、かといってひどく共感するのでもなく、自分の歩んできた道を振り返りながら見入ることが出来たからです。
そして人々の関係性だけに注目するのではなく、当時の世相や風俗に胸踊らせることも嬉しいのです。バスガイドのデコちゃんが案内してくれる銀座や丸の内、そしてごちゃごちゃと家が連なる下町は今の江東区のあたりでしょうか。更に「郊外」としての世田谷の広い風景。当然だけどさすが成瀬監督、切り取り方がさりげなく美しくって参ってしまう。そんな時代背景に生きている人々を「いい」「悪い」と一元的に断ずることなく描かれています。人間ってそんなにわかりやすいものじゃない。家族の関係性だってそうでしょう。断絶ではなく、ちょっとした変化で繋がっていることをしみじみと伝えてくれるラストシーンが染み入るなあ…。幾度と無く上映されているけれど、本の街にあるこの劇場で見ることが出来たのも良かったな。

稲妻 [DVD]

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