地元へ。駅から我が家へ向かう道すがら、母校を通りぬけると授業中。「桐島」気分であの頃を思い出してみるけど、自分のヤな奴加減に冷や汗が出る。日差しが強くて東京と変わらぬ暑さのなかを歩き、喫茶店へ入る。古い家屋を生かした造り。サンドイッチとチャイ。それからぐるっと歩いて、「あぶない!」や「猫」を見つけたり。それからまた喫茶店。白くて高い天井。珈琲。この店は今年出来たしさっきの店もこの10年内くらいだったか。どちらも居心地が良い。あの頃は授業サボったり放課後に行くトコはミスドしかなかったけれど、今は避難場所がいくつもあるのだな。
こんなふうに新しい店も増えていて、父に「この街はそこまで深刻な状況でもないよね」と話すと、「まだなんとか営業している店も多いけれど、この数年でだいぶ変わるだろうね」と言われた。ああ、確かにうちもそうなのだ。
夕飯後、何気なくテレビを見ていると、個人商店の継承の話や高齢化社会や闘病に関する話題が案外多くて、なんと言えばいいかわからなかった。台所の片隅に子供の頃使ってたキキララの水色のハンカチがあって、懐かしいなあと手に取ると、私の名前がひらがなで、母の字で、書いてあってドキッとした。「それ、東京に持って帰って」と言われたけれど「あっても困るもん」と突っぱねてしまった。
東京に戻ってから鼻の奥がツンとするなんて、酷い娘だ。今の両親へ「模範解答」を出すのが怖いのだ。お土産を入れたトートバックを開けると、そのハンカチがこっそり入っていた。