「バーニー みんなが愛した殺人者」

リチャード・リンクレイター監督とジャック・ブラックが「スクール・オブ・ロック」以来久々にタッグを組んだ作品で、コメディと思いきや重い後味が残る野心作でした。
見る前にあまり情報を入れないほうがいいかなと思い、以下畳みます。


事件に至るまでを近隣住人のインタビューを挟みつつ描く手法で、主人公バーニーの心中に深く迫ること無く、一定の距離を保ち平坦に映し出している…と思いきや、後半でマシュー・マコノヒーにイラッとしている自分に気づいてハッとした。バーニーをジャック・ブラックが演じているので何かハラにあるだろう…と胡散臭く(実際、聖人過ぎて奇妙に写る)捉えていたし、過去が語られないのは彼の正体が後に暴かれるからだと見始めたのに、いつの間にか客観的立場である私も「語り口の誘導」に絡めとられていたことに気づかされたのだった。こうやっていつも見失ってしまうのだ。
静かなる狂気がひたひたと染み込んでいて、それは映画だからではなくて、私たちが暮らすこの世界そのものだってことは、もうとっくにわかってる。それなのに。バーニーやシャーリー・マクレーン(!)演じる老婦人の人物像は、ちょうど仕事で読んでた、実話を踏まえたテキストと重なるところがあるのでゾワゾワしてしまう。過度に誇張されたものではなく、誰もが持っている側面でもあり、角度によっていかようにも変わってしまう。
日本でリメイクされたら鶴瓶が主役かなーと思ったけどそれって「ディア・ドクター」…。それに「田舎の閉ざされたコミュニティー云々」となると、ちょうど今騒がれているニュースにも繋がるのだよねえ。あと、アメリカの司法制度についても驚いた。
最後の最後でリチャード・リンクレーターの仕掛けにゾッとしてしまった。映画の手法にこだわる監督らしかったです。
「良い殺人と悪い殺人があると信じているのは妄想だ」とかなんとか云っていたのは森博嗣の小説だったかな*1、ふと思い出した。

*1:犀川先生のと、2つ目のシリーズの始めまではオンタイムで読んでたのだけど…。