「自由が丘で」「そして泥船はゆく」

ホン・サンス新作は加瀬亮主演。今年公開の前作「ヘウォンの恋愛日記」にひどくやられた身には、今作は物足りなかったというか好みと違ったというか。今作はサラッとしすぎで、奥底をぐわっと掴んでいないように感じるのは、敢えてなのだろうか。「教授とわたし、そして映画」のような、根っこをじわじわ浮かび上がらせる諦念に満ちた辛辣なまなざしがなかった。
ホン・サンス印な手法が「心象を導く」のではなく、「概念」に留まってるように感じる。とはいえ、技巧があるからこそ、軽さを残せるのだろうけど。。自身で影響にセザンヌを挙げてることにナルホド納得……。確かにキッチリした上での「抜き具合」は、セザンヌ的かも。登場人物の描き方も魅力に乏しかったナア。いつも「しょうもないなあ」と思いながらも愛おしい人たちがたくさんなのに、今回は「誰一人として」そういう気持ちになれなかった。でも街の佇まいは相変わらず魅力的で、あのくねくねしたゆるい坂道をいったりきたりしたくなった。上映はシネマート新宿、「三人のアンヌ」同様に大きいスクリーン。でもこっちだと大きすぎるんだよねえ。小さいスクリーンは小さすぎるけれど、こっちのほうが合ってると思うの。



続いて武蔵野館へ「そして泥船はゆく」を見に行った。
一週間限定公開の最終日、満席御礼。20〜30代前半のオシャレな人(主演の渋川さん的な)が多くて、ビックリした。栃木県大田原市で祖母とふたりで暮らす無職の男の退屈な日々を描いた、渋川清彦のキャラクターあってこその、作品。地方で少ないスタッフで制作した自主映画ということを加味すると、完成度と自由度が高く驚くべき映画と思うけれど、3部構成の最後のはちょっと逃げに思えてしまった。退屈な日常を自堕落に生きる(生きざるを得ない)どうしようもなさをもっと徹底的に描いてほしかったなあ。
鑑賞後読んだこのインタビューはとても興味深かった。海外の人が見たほうが驚きと発見があるように思えた。英語字幕が、いわゆる俗語がこう訳されるのか!と面白かった。
http://japanstore.jp/blog/hirobumi_watanabe_/


帰りの電車は忘年会帰りなひとたちばかりで、焼き肉のにおいがした。