カヒミ・カリィ/It's Here

It’s Here

It’s Here

前作は大好きで、00年代を代表する一枚と言っても過言ではないと断言する私なのでかなり期待していた今作は、あの「実験的な」方向性を更に突き詰めるのではなく、本来カヒミが好きであった素の部分に立ち返った上で、「今」奏でる響きが高らかに鳴っていました。
この数年で吸収したものによって過去を受け入れた感のあるカヒミの変化が確実に表れ、そこへドラマチックに生活が一転したことで、過去と今と未来の結晶というべきサウンドが生まれたのではないでしょうか。
1,2曲目などはヴァージニア・アストレイ早瀬優香子(の「水と土」というか、80年代後半のエスニック流行りのときのフレンチポップス)をつい思い起こした「唄モノ」で、前作の「声が楽器として機能していた」部分が好きなだけにアレレ…と思ったのですが、3曲目で深化する音にゾクッとして。以降、ふとした瞬間にクッと持っていかれてしまう「響き」が随所に織り込められています。
ツワモノ揃いの演奏はさすがに素晴らしく、9曲目後半などには震えてしまうのだけど、ただね、唄っていない部分の、即興演奏だけのときにグッときてしまうのだなあ。それを引き出しているのはカヒミであるとはいえ、唄を改めて押し出しているだけにチョットモヤモヤしてしまう…。
穏やかになった作風は私生活の影響もあるのでしょうか。静謐で張り詰めた前作のほうが好み、ではあるのだなあ。でもまた数年したら私のココロにしっくり落ち着きそうなアルバムのようにも思います。