グランド・ブダペスト・ホテル

今作でウェス・アンダーソンは「映画製作に於ける理想」のほぼ全てを手に入れたといっても過言ではないのでは。
作家性が極まりつつも大衆性も兼ね備え、パーソナルな視点を語りながら俯瞰の視点で描かれている様は、神がかっているとさえいえるような。そしてエンドロールは多幸感に溢れててふぁああっと昇華する気持ちに。もしかしたら本編は壮大な前振りなんじゃないのかしらと思えてしまう愛おしさ。ウェスの、自分が実現したいことをサポートしてくれた全てのスタッフへの敬意が感じられた。
最後まで終始ワクワクしてとても面白く見たけれど、いい意味で何も残らない後味の軽さだった。事細かに虫眼鏡で見れば深く広がる映画の魑魅魍魎が蠢いているだろうけれど、そういう見方をカコーンと蹴っとばしちゃうことも出来るし、かといって散りばめられた小道具のオーダーメイドなウンチクを嬉々と語ることも出来るし、劇伴も真っ当なようで独創的だし、それぞれが得意分野で面白がればいいじゃないという強さと余裕がホントに凄いなあと思うからこそ、私の胸に強く響いてくることは無かったのだ、なあ。乱暴に言えば、ある意味、BECKと近しいスタンスに感じるのだな・・・。完璧すぎて、隙間がない。それこそが個性であり、そういう作品があって良いのだけれど。
と辛口な物言いをしたけれど、好きな作品です。

そういえば昨今のミュージシャンは「どんな状態で聴いてもらうのか」を念頭に入れて録音する傾向があると思うけれど、ウェス・アンダーソンは映画監督としてそのへんどうなんだろう。映画館もいろいろだし、家のテレビやPC、はたまたスマホで鑑賞する人もいる今。この情報量はスクリーンで見てこそで、家でもう一度観るときには一時停止しながら発見!なんて楽しみもある。それと、スクリーンサイズの変化はデジタル上映だからこそ出来うることでもある。家の小さな画面で見たときにどうなんだろか。
今回見るにあたって、行きやすい映画館ではなく、「見合う」映画館で見たいと思い、金曜の会社帰りに遠回りして日本橋、COREDO室町へ向かった。まだ行ったこと無かったし、シネコンとしても場所柄落ち着いているかなと考えたからだ。実際、館内は3階で行きやすいし1フロアなのでスムーズにスクリーンへ向かうことが出来た。この辺りはバルトなんかと大違い。ロビーも広めで窓に面してソファも多く、居心地が良い。週末の大混雑した場合は印象が変わるかもしれないけれど。観賞後も閉店した館内をするっと降りて駅へ向かい、眠りに就く街に帰って行くのは気持ちとして良かった。本当はベルサイユ宮殿みたいなロケーションの恵比寿ガーデンシネマで見たかったな・・・。

もうはまぞうにあるのか!と驚いたら「発売日: 2099/06/10」ってどういうこと?決定したら訂正するのかな。