建築と社会

7日土曜日。とても寒くて着込んで外出。昼は湯島近くの老舗でヒレサンド。揚げたてのあたたかいのも美味しかった。
その後国立近現代建築資料館へ。10月から開催中の「建築と社会を結ぶ―大高正人の方法」は非常に素晴らしい展示で、本日2回目の訪問。豊富な資料のひとつひとつが繋がって、大きな円を描いているような構成で示唆に富んでいた。大高氏は「坂出人工土地」「広島市営基町高層アパート」などを手掛けたが、”建築”というハコをつくる仕事から抜け出し、”人の暮らし方”を考え、よりよい都市をつくろうとしていた。構造的に意匠的に素晴らしい建築物が出来たとしても、街がどうあるべきか。暮らす人々にとってどうあるべきか。
昨日は「大高正人との対話」と題したシンポジウムを聴講した。登壇者に藤本昌也さんと西村浩さん。司会に本展覧会を手掛けた松隈洋さん。藤本昌也さんは大高事務所で基町アパートを担当されているが、直々に継承された意志を次世代へというまなざしを持っておられ、その想いを確実に担う西村浩さんの明確で頼もしい発言が非常に良かった。松隈洋さんの繋げ方も流石に的確で、いい時間だったなあ。芯を持って広い視野で先を見据えて動いていくこと。

そして夜、急激な気圧低下の前触れか、体調が悪くてぼんやり。七草を刻んだうどんで晩御飯。寝る前にふとテレビを点けたら「あれ?基町アパートが映ってる?」と見始めたNHKスペシャルが重くのしかかった。基町アパートに長年住む”ばっちゃん”は、家庭に恵まれず非行に走る地域の子供たちに親身になって付き合っている。毎日たくさんの子供たちがばっちゃんの部屋にやってきて、つくってもらったカレーを食べ、抱え込んだ気持ちを吐露し、彼らの居場所になっている。見上げて屋上を歩いた基町アパートの一角にこんな場があったとは。公営住宅なだけに様々な家庭があることは想像できるけれど、どんなに理想を高く掲げた住宅がつくられてたとしても、ハードでは解決できないのだと見せつけられてしまった。
「まちづくり」が持て囃される昨今、建築物は「住民の自立した意識のきっかけ」として機能するべき「理想」があるとしても、それはある程度「余裕ある生活が可能な場」でなければ実現しないのだと、改めて思わされてしまう。シンポジウムで生活共同体の仕組みとして資本主義でも社会主義でもなく「組合」の話が出たけれど、拒否せざるを得ない人を排除することは出来ないでしょう。
基町高層アパートは立地に於ける特異な経緯を踏まえたうえで、単に住む場所をつくろうとしたのではなく、集まった人と人とのコミュニティーが育成されることを大高さんは望んでおられたはずだけど、現実は困難で複雑で、今も解決出来ない問題がのしかかっている。それはそれ、ではなく、私たちはそういう社会に住んでいる。とはいえ、だからこそ、大高さんの意志が継承され、これからの時代に向けてアップデートされ続けなければならないのだろう。