スゴイぞ、九州列車!〜「はやとの風」と「いさぶろう・しんぺい」に乗って

(改訂したため、いただいた星が消去されてしまいました。くださった方々ごめんなさい。ありがとうございました!)
鹿児島旅をしてきました。初めての九州!そして鹿児島!
でイメージすることは数あれど、私はなんといっても「列車」です。
JR九州の列車に関しては、以前コチラ「デザイン満開 九州列車の旅」で綴ったとおり「憧れ」でありました。で今回、いくつかの列車に乗ることを重点に置いたのはモチロンのコトなのです。
まずは、

鹿児島中央〜吉松を走る「はやとの風」と

人吉〜吉松間を走る「いさぶろう・しんぺい」に乗りました。


はやとの風」は九州新幹線開業の2004年3月に合わせて運行開始された、鹿児島中央駅肥薩線の吉松駅を結ぶ観光特急で、「いさぶろう・しんぺい」は人吉〜吉松間の山線を走る観光列車。車窓風景は勿論、車両デザインも素晴らしく、まさに鉄道の旅を満喫できる区間

しかし「はやとの風」は1日2便!ぎゃ!旅行中いつ乗るかのスケジュールをぐるぐる延々考えた結果、途中停車駅である嘉例川駅が空港から近いことに気づき、直接タクシーで向かってここから乗車することにしました。ネットで調べたところ、空港からは車で10分ほどとのこと。
飛行機は空港に9:50着、吉松行きの午前便「はやとの風2号」は嘉例川10:23発、これはちょうど良いかも! 
とはいえ飛行機が諸事情で遅れることもあるし、30分以内に駅に着けるか保証はなく(念のためタクシー会社に電話したけど難しいといわれた)、間に合わなければ10:57発の普通列車に乗ることにしました。

羽田空港8:00発→鹿児島空港10:00着(予定より10分遅れ)〜タクシー〜
JR九州 肥薩線嘉例川駅10:23発「はやとの風2号」→吉松駅11:03着〜吉松駅11:42発「しんぺい2号」→人吉駅12:56着〜人吉駅13:15発「いさぶろう3号」→吉松駅14:37着〜吉松駅14:54発「はやとの風3号」→鹿児島中央駅16:39着



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以下、初日の興奮のままに長々と綴らせていただきます。

空港から嘉例川駅まで

羽田発8:00の飛行機に乗って10:00に鹿児島へ到着。青空が濃く高く、カラカラに晴れていて暑い。さっそくタクシーに飛び乗ると「この頃ずっとこんな天気ですよ」と運転手さん。しばらく進むと見慣れない緑の畑、方々にあるプロペラで風を回している。?と思っていると「茶畑」だと教えてくださった。「みやべ茶」というらしく、空港は広がる茶畑の真ん中に建設されたとのこと。

タクシーは山道へ入りどんどん"人里離れた"風景になっていく。その中にぽつんと、駅。空港から5分強の場所とは思えないほどひっそりと、時間が止まったかのように佇んでいるのは「嘉例川」駅。明治36年に開業し、今も当時のままの木造駅舎を残す現役の無人駅は、今回の列車旅の起点となりました。

で結局、飛行機を降りてから10分程で嘉例川駅に到着、10:23発に無事、間に合った!


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列車がくるまで10分程あるので、駅舎をじっくり見学。長い年月を感じさせる空気感に満ちた、素晴らしい佇まい。



右の写真は竹下景子が出演している古い観光ポスター。

嘉例川駅営業開始 明治三十六年一月十五日 標高一六七.三一七メートル」って書いてある。

はやとの風」にうっとり



そして遂に緑のトンネルを抜けて、「はやとの風」がやってきた!
漆黒のツヤツヤの車体に金のロゴが輝く優雅で重厚な姿、ああ、カッコイイ…!
一気にボルテージが上がりブワーッと血が沸き上って、いてもたってもいられなくなる。うっとりして、ハッとして写真を撮りまくる。


床から天井面までをガラスにした展望席(座席フリー)があるのです。

乗車していたひとが駅に降りて来た。各駅では5分程停車し、「駅舎や風景を楽しんでください」というのがウリなのだ。どの人も嘉例川の駅舎に声を上げ、みんなそれぞれに撮影する。なんだかとってもいい雰囲気。



そして車内へ。車内もほんとうに美しかった。
車体は屈強なイメージなのに、車内は白く明るく洗練されていてヨーロッパの列車のような、でも「日本の列車」だということをしっかりと感じさせてくれるものでした。
2両編成で、1号車は指定席。


素敵〜!!!
間仕切りにはスリットが入っているため、目隠しの機能を持ちつつも重々しくありません。白木の明るさがなんとも軽やかで、列車じゃないみたい。渡辺篤史が訪問するオシャレなおうちのようですよ!

展望席の座席は背が美しい曲線を描くベンチで、窓には簾のようなブラインドがかかっています。


トイレには目隠しに幕が。

屑入れに籠が使われていたり、床もピカピカ、

至る所に絵が飾られています。

ライトには「HAYATO NO KAZE」と記されるなど、細かいトコロまで行き届いています。

椅子に張られた布地も素敵。列車の椅子には常々「変なプリントが多いなあ」と思っていたのですが、さすが違いました。椅子の柄から乗務員の制服に至るまで、すべて車両デザインを一任されている水戸岡鋭治さん(率いるドーンデザイン研究所)が手掛けているのです。



自由席にもホレボレ。

展望席です。

入り口のフリースペース。荷物置きや下車準備にちょっと腰掛けたいときに使われるよう。
自由席は2号車だけど、下りなので前方になります。

ボックス席中心ですが一番前の席はロングシート、ここをひとりじめして車窓を楽しむことにしました。



入り口にはほうずきが。あとで知ったのですが、これは女性乗務員さんの心配りとのこと。
こんな素敵な列車に乗って旅をするなんて、しあわせだなあ。

「はやての風」いよいよ出発!

流れていく緑にワーワーしていると次の駅、霧島温泉駅に到着。

ドアが開くとホームから入って来た女性が「霧島のお茶をサービスしています、みなさんホームへどうぞ!」
え?と思いながらホームに降りると冷たい緑茶が用意されていて、そのお茶っぱや栗や椎茸などの霧島の名産品を地元の方々が販売しているのです。

このサービス精神、素晴らしい!なるほどなあ…。緑茶はやわらかい味でさっきから興奮しっぱなしの心を落ち着かせてくれました。
…と、TV局がこの様子を取材していて、同じ列車に乗り込みました。タレントがいるわけではないので、BSチャンネルかなにかでしょうか。


さて次は大隅横川駅
この駅舎も築100年以上、かつては近くに金山があり栄えたらしいけれど今は静まり返っています。

ひさしにほうずきがぶら下がって、情緒ある佇まいを更に深めてくれます。嘉例川駅もそうでしたが、無人駅だというのに季節の花が生けられていて私たちを和ませてくれます。これは近隣のかたがたがボランティアで欠かさず行なっているとのこと、駅舎の掃除などもしているそうです。


再び列車は走り、次の栗野駅到着。この駅は停車時間が短くホームに降りることは難しい様子。

車内から見える駅前はキレイに舗装されていて、向こうに大きな池が見えます。名水百選に選ばれた「丸池湧水」とのこと、遊歩道が完備されていて公園のようになっていますが、こんなに離れていても水面が青く輝いて見える程、美しさがわかります。
そういえば駅名標に「湧水町」と記されていて、市町村合併で付いたのかなと思ったらやはり、平成17年にここ栗野町吉松町と合併して「湧水町」となったそうで、その新町名の由来ともいえるのが丸池湧水なのでしょう。
時間があったら是非近くで見たかったです。


そしてそして、遂に終点、吉松駅へ。11:39到着。


ここで乗り換えのため、30分ほど時間がありました。

ホームを回る駅弁の売り子さんがいるようです。

「しんぺい2号」に乗るの巻

吉松駅から「しんぺい2号」に乗り換え。

赤いカワイイ列車です。とてもきれいな赤い色。カワイイと言ったけど大人っぽくもある。キャッキャしながら写真を撮るのであった。


くまー

展望席がこちらにもあります。 さて中へ。

濃い茶色に統一されていて、木製のボックスシートはヨーロッパのアンティーク家具のようにシック。

張られた布地も渋いグリーンにオレンジのドットで上品です。

展望席はこんな感じ。いいねえ。

でも見慣れた運賃表もあります。

しんぺい号」出発!(山を登る篇)

列車と風景にココロ奪われていましたが、気がつけばお腹が空きました。もうすぐ12時です。車内販売のお弁当を買いました。

じゃーん!栗飯!栗もほくほくでおいしー!切干大根などのおかずもとっても美味しかった。おすすめ。

なんと鮎めし。酢締めの鮎が大胆にのっかって、これまたおいしい。栗も鮎も、終点の人吉の名物だそうです。


指定席に座っていましたが、眺望を楽しむにはやはり、展望席。立ち席ですがかまいません。

しばらくするとトンネルが続きますが、合間の緑輝くなかに記念碑*1が見えました。

真幸駅スイッチバック


最初の停車駅、真幸駅到着。まさき、と読みます。「真の幸せに入る」に通じるとして人気のようで、ホームに「幸せの鐘」というのがあって、みんなゴンゴン鳴らしてました。肥薩線一の宮崎県の駅で、宮崎県で最初に出来た駅でもありますが、現在は周辺に人家一つない「秘境駅」のひとつで勿論無人駅です。


しかし地域のボランティアの方々が駅を清掃し、飾り付け、私たちをもてなしてくれるのです。


これまでのように駅舎見学のためだけではなく、停車しなければならない理由があるのです。

それは、スイッチバック!この駅の見物なのだ。
さっき通った線路を引き返す形で発車し、急勾配の山斜面をジグザクに、横から見るとZ字になるように登っていきます。折り返し地点に入っては一旦停止すると、運転士さんはブレーキハンドルを持って車内後ろの運転席へ移動し、こちらが進行方向になって再び発車するのです。

移動中の運転手さん。大忙し。

さっき通った線路が下に見える。

真幸駅も下に見える。
こうやってじりじりのっしのっしと一生懸命、赤い列車しんぺいくんは険しい山を唸りを上げながら登っていく。
スイッチバック」について、車内放送で女性乗務員さんがやさしく解説してくれるのでふむふむと聞きながら、車内の様子や眼下に広がる風景と足に伝わる振動で「体感」できます。

日本三大車窓に吹く風

スイッチバックを終え、トンネルを4つ抜けると

濃い緑と澄んだ青空が目の前に!トンネル続きだったために開放感が更に加わって、まさに息を呑むような広がり。
日本三大車窓*2」といわれる、雄大霧島連山が広がるこの眺望はちょっとガスってはいますが、じっくり味わえるようにしばらく停車してくれます。

開けた窓からは風がさああっと流れ、線路脇のススキはさやさやと揺れると、綿帽子がふわああああっと舞い、視界が白くなり、ああ幻想の世界にいるよう…。

ぼけーっと眺めていると隣にいた女性が「キレイですねー」と話しかけてきました。
「ええ、ほんとにキレイですよね。よく晴れて気持ちよいし。」と言葉を返し「私、東京から来たんですよ」と言うと、
「あ、私も今は東京なんですけど、地元がこっちなのでちょっと帰って来たんです」とのこと。確かに鹿児島生まれということが頷けるハッキリとした顔立ちの美人なかた。笑顔が素敵。そこに彼女のお母様も加わって、しばしお話しする。
絶景をバックに展望席で立ちながら、見知らぬ人との会話を呼んでくれるこの風景と、ここまで運んでくれた列車に嬉しくなる。そういうやさしい風が吹いているのです。


さて再び列車は進み、この路線で一番長いトンネル(この急勾配で2,096m!)を進みます。この矢岳第一トンネルの着工は「人里離れた山奥であり資材搬入などの困難に見舞われた。また水分の多い凝灰岩のために湧水が多く、かなりの難工事であった」(wikiより)そうで、3年がかりで漸く完成したこの工事の着工時の通信大臣・山県伊三郎と、開通当時の鉄道院総裁・後藤新平、の名前から「いさぶろう・しんぺい」号と名付けられたそうです。先人への思いが感じられる(且つ愛らしい)ネーミングだなあ。
ここを抜けると宮崎県から熊本県へ、矢岳駅です。

しんぺい号」出発!(山を下る篇)


矢岳駅。こちらも古い駅舎です。

彼岸花が生けられて情緒あります。ちょうどお彼岸ですね。

駅舎の佇まいもいいなあ。

この駅は肥薩線の最高地点。駅舎の向こうにはD51が置いているSL展示館がありました。

ぐる〜りループ線&スイッチバック大畑駅に泣く。

ここから列車は斜面を下っていきます。さっきまでフウフウよいしょよいしょとゆっくり進んでいたのに、急に速度を増してゴオォォォと、コワいくらいに早くなりました。

トンネルをガンガン抜けると

ループ線。急勾配を緩和するために、山の斜面にぐるりと螺旋状に線路を引いています。
ここで停車、なかなかループ具合は見えにくいですが、かすーかに向こうに線路が。
「こちらの航空写真」を見ると(画像大きいので注意)スゴいことになっているのが、おわかりいただけるかと。
そしてぐるり途中にあるのが大畑駅

ここで再びスイッチバックがあります。ループ線スイッチバック、というコンビは日本ではここが唯一だそうで、wikiによると

  • 大畑駅は)開業当時に走っていた蒸気機関車のために設けられた、信号所と給水所としての役割が大きかった。
  • スイッチバックを併せ持ったのは勾配途中に平坦な場所を設け、そこに停車場を建設するためだった。
  • 連続した勾配を登ってきた蒸気機関車は、この駅で給水をし、機関士たちは駅のホームにある湧水の洗顔場ですすに汚れた顔を洗っていたという。
  • 人吉駅から大畑駅まで、D51蒸気機関車で1トンもの石炭を消費し、1分間に250リットルもの水をボイラーに送り続けていたという。特に、1927年まではこのルートが鹿児島本線とされ、多くの重量貨物列車が往来していた。
  • この駅で一休みした列車は、さらに険しい矢岳駅への勾配へ挑んでいった。

くうう、当時の大変な鉄道事情が伺える、泣ける話ではないですか!

先述の「信号所と給水所」が残っていました。左は「給水塔の台座(石積み!)」、右は「機関士さんが顔を洗うための洗顔場跡」、どちらも今見るとクラシカルで素敵。
かつての鉄道技術がてんこ盛り、まるで知識がない私でも実際に乗って/見て、知りうることいっぱいでワクワクします。



待合室には、壁一面におびただしい数の名刺が貼られ、異様な雰囲気。「珍しい駅に来た記念のため」とか「ここに名刺を貼ると出世する」などと言われてるそうですが、どうなのコレ…。コワいよー。


さてスイッチバックをして、ループ線を過ぎ、トンネルをいくつか抜けると、

キラキラと流れる球磨川(くまがわ)、ここで鮎がとれるのね。

人吉駅12:56着、しんぺい号の終点です。

人吉から鹿児島へ!


きじ馬は人吉の郷土玩具です。かわいいねえ。
続いて13:15発の「いさぶろう3号」に乗って吉松へ折り返します
「いさぶろう」と「しんぺい」は実は同じ車両で、人吉行きの上りを「しんぺい」/吉松行きの下りを「いさぶろう」というのです。
吉松に14:37着、ここで再び「はやとの風(3号)」14:54発に乗り換え、嘉例川駅を通って一路、鹿児島中央駅へ向かうのです。
同じ風景ですからして、帰りは展望席に座り改めて魅力をじっくり味わうことにします。


人里離れた風景が、徐々に人の生活を感じさせるものに移り変わっていき、

桜島がかすかに見える!
16:39、鹿児島中央駅到着。朝10:00に空港着いてようやく、改札をくぐって鹿児島市の中心部へと降り立ちました。

朝東京を出たのが信じられないけれど、この列車にまず乗ったことは鹿児島を知る大きなひとつになりました。

*1:「復員軍人殉難碑」といい、「第二次世界大戦が終わり、故郷へ戻る軍人を乗せた列車がトンネル内で立ち往生し、歩いて脱出しようとした人たちが列車に引かれてしまう大惨事があった」ことによるもの。うわあ、ようやく戦地から帰還したのに故郷間近で…。

*2:あと2つは「根室本線新内駅付近(既に廃線…)・篠ノ井線姨捨駅ですって!