世田谷美術館〜写真美術館〜神保町シアターな一日

まずは用賀へ。駅から歩くこと15分強、閑静な住宅街を抜け、車が行き交う環八を渡り、砧公園の緑のなかを進むとようやく辿り着く世田谷美術館にて「暮らしと美術と高島屋」展を見る。創業180年を迎えた高島屋に焦点を当て、「企業と文化」をテーマとした、なかなか珍しい内容。今回の目玉はやはり、所蔵作品の豪華絢爛さでしょう。美術の教科書のごとく錚々たる作家がズラリ。他の美術館などでは見たことがないものばかりだったヨ。「企業と文化」というと、これまでセゾン的文脈で語られることが多かったけれど、歴史の古い高島屋だけに蓄えが違うというか・・・。「世田美が百貨店のフタを開けてみた」というコピーは秀逸。
江戸時代に開業した高島屋が、明治時代に入り外国人客向けの商品を取り扱うようになり、万国博覧会などに参加、その後美術家たちのパトロンとして親密な関係を築いて美術展を企画するようになる。いわば美術作品も商品として取り扱うことで、文化的美的な場を提供し、豊かな生活をもたらす=百貨店として様々な商品が売れることに繋がる…この試みはいわゆるセゾン文化に繋がっていくのでしょう。西武はもとより、小田急東武伊勢丹と、デパート内に美術館があったものですが、今では東急のBUNKAMURAくらいしか浮かびません・・・ 
百貨店も今ではSCに取って代わられ、単なるハコになってしまう始末ですからして、ナントモ世相を如実に表す施設なのだなあ。そういう点からすると、広告宣伝あたりの資料をもっと見たかった。
この企画、やりようによっていくらでも応用が効きそうなので、続編希望したいなー。それにしても、伊勢丹やルミネなど、今もやっぱり「ART」を手掛かりにイメージを作り上げる戦法が多用されるのが興味深い。でも仕掛け屋さんに外注で、社内に目利きたる人がいるわけではないし、育てようとしているわけでもないだよねえ、恐らくは。


さて新緑の砧公園を歩いて深呼吸、用賀駅に戻って田園都市線〜二子玉で大井町線に乗り換えて、途中下車してアトリエでクッキリした青のスカートを購入。スカートなんて買うのとても珍しいのだけど、自分への記念にした。それから東横線に乗って祐天寺駅で下車、坂道をてくてく下り、下馬〜東山、山手通りを渡って目黒川。撮影スポットはめがね橋からクリーニング店に変わったのだろうか?なんつて。ここまでの間、途中で美味しい珈琲とレモンロールケーキをいただいた。中目黒になると急激に人が増える。東横線の高架を潜り、駒沢通りを潜り、路地を進んでいくと、すーごいくねくねして急な坂道になって興奮しながら上ってく、高級マンションの入り口ではトラックからワインセラーが納入されていった。恵比寿、そしてガーデンプレイス。相変わらず落ち着かない空虚な空間。元ガーデンシネマ前には女性が行列、ああ哀しい。


写真美術館へ。「日本写真の1968」を見た。『1968年を中心に、1966〜74年の間、日本で「写真」という枠組みがどのように変容したか』を辿る内容。東松照明森山大道中平卓馬高梨豊桑原甲子雄牛腸茂雄たちの、強烈濃厚な光と影がこれでもかこれでもかと押し寄せてくる。時代的に学生運動が激化したころ、世間の空気もむんむんと昂っていたことだろう。時代の記録、人の記憶。写真1枚1枚の求心力が凄まじく、クラクラした。


続いて「写真のエステ - 五つのエレメント」展。「写真の美しさはどこにある?」をテーマとして、写美のコレクションのなかから「光」「反映」「表層」「喪失感」「参照」という五つのエレメントに分けて紹介。こちらは学芸員さんの編集力で勝負、といった具合。「1968」の引き寄せられる濃度とは異なり、拡散したり溶解する光が感じられた。小部屋になっていた川内倫子のハイキーな”わたしだけの”世界観はさっき見たのと真逆すぎて面白い。クリスチャン・ボルタンスキーによる漂う気配の強さにもぞくぞくさせられた。写真とは過去の光を留めたもの、なのだな。


再び移動、恵比寿駅から日比谷線〜日比谷で三田線に乗り換えて神保町、餃子(いつもの中皿単品)を食べてから神保町シアターへ。
「文豪と映画〜川端康成 『恋ごころ』の情景」特集のうち、特別上映。「夕映え少女」を見た。 2007年作品で、東京藝術大学大学院映像研究科在籍の映像作家たちが、川端の初期の短篇を映画化した4本のオムニバス。日本の名画中心のここにおいては新しい試みのようで、良いことだなあ!って応援の気持ちでイッパイなんだけど、作品自体はドレもなかなかキビシかったよ…。瀬田なつき監督の「むすめごころ」が一番の目当てだったけど、見たことあった。。。ふとしたシーンに瀬田監督らしさがあるケド、、、。中でも一番ツラかった(脚本も演技も)作品が、この間見た「乙女ごころ三人姉妹」と同じ原作だとは…!!! えー。


こんなふうにあっという間に一日は過ぎていく。散歩と散歩のあいだに、美術館・ギャラリー+レコ屋+映画+珈琲(カレー・餃子)が挿入されて一日が出来上がるのって、ほんとに楽しいなあ。