今年の音甘映画館 【音編】

私にとって一番大きな変化は、山本精一さんについてでした。これまで数多の活動をされてきた方ですが、どれもピンと来ていなかったのです。でも夏にヤマソロの対バンで聴いて、ウォッと心揺さぶられた瞬間がありました。後付では無理な、持って生まれて育ったものそのものがあるからこその今の音が表出されていることを感じたのです。そして新譜を聴きました。

童謡(わざうた)

童謡(わざうた)

1曲目「ゆうれい」、朴訥とした唄声を経てのギターソロで一気に踏み込まれた瞬間に泣く。ライブでも思ったのだけど、なんというか音に無言の説得力があって凄い。そして歌詞に胸を突かれた。今年の私のテーマ曲。こういう唄モノをつくりながらカオスでノイズに飄々とされてる様がこの方のオソロシサそのものなのだろな。

そしてもうひとつ。

ニューワールド

ニューワールド

20年ぶりのオリジナル ソロアルバム。音の研ぎ澄まされ方が別次元で、強靭且つたおやかで洗練された佇まいに圧倒されました。再生してすぐの一音が鳴った瞬間に、やばい!と狼狽えました。長嶌寛幸さんによるサウンドデザインや米田知子さんの写真を使用したジャケ、現役大学生の青木理紗さんを起用したPVに至るまで、「確固たる意志」が在るからこそでしょう。今もう一度聴き直したところで窓の外の光と鳥の鳴き声がして、ハッとしたのです。

私にとって音楽は逃げる場所だったんです。でも今年に入って音楽をつくっていたら、音楽が避難場所ではなくなっていると気づきました。「これからどうなっていくんだろう」という気分が、80年代のはじめに感じていた個人的な閉塞感とすごく似ている。だけど当時とは決定的に変わってしまった――そういうことを表現したかったんです。
→「interview with Phew ニューワールド、Phewのもうひとつの世界

大ベテランの方の新譜を選ぶのはズルいけど……時代がここまで変貌しても自分の表現を貫き続ける「強さ」、鳴り響く聞こえない音を聞き取る「耳」、そして取捨選択出来る「覚悟」があるからこそ、つくりだせる音楽ではないでしょうか。音の鳴りに、2015年の日本を感じながらも自己の世界が屹立してる凄みがありました。