「ノスタルジア 4K修復版」

網膜に張り付いた映像を剥がせないまま数日経ち、ようやく言語化し始めている。
脳内の朧げなのに鮮明で荒いのにきめ細やかな記憶の粒子との違和感に戸惑った。引きの画面が多いからか室内のシーンは舞台を見ているみたい。彩度が低くくぐもった仄暗い光景は、クリアで明るく、纏う水分さえも掴めるようだった。靄が晴れて世界の秘密を暴露されたような気持ちすらあった。
そんな想いで見始めたからだろうか、美辞麗句の形容詞を連ねて讃えたくなる映像表現に意識が向かなかった。むしろ演説シーンなどわかりやすく自らの想いを伝えようとしていると感じた。


ノスタルジア」というタイトルの映画を異国で異国のスタッフを抱えて制作しながら、遠く離れた祖国に強き想いを馳せた魂は故郷へと帰っていくものの、完成後に亡命したという事実。これほどまでに完璧で静謐な美しさが宿る映画を作らなければならなかったタルコフスキーの信念と心情と意志。映画論などの著作も多くあるように、本来は「言葉の人」なのだとも思う。その言葉を映像に変換した、その途方もなさ。その痛切さを「詩的な映像美」などと簡単に表してはいけないのではないか。昔書いた感想が無邪気だなと苦笑する。


映画は監督ひとりでできるのものではない。脳内に描くイメージを寸分違えず深く鋭く追い求めて具現化するには、相当の資金と腕利きのスタッフが必要で、タルコフスキーが単純に狂気に満ちた表現者ならば国際的な協力を得た大作なんてつくれない。終始緊張感が漂いながらも、今回どことなくユーモアを感じたのはタルコフスキーの人柄にその要素があるからかもと妄想するけど、逸話を知る限りはそれはないか・・・。


タルコフスキーが作り上げた映画は80年代前半に綴られた寓話ではなく、2020年代の今もなお解すことのできないほど混沌とし続ける。4Kの鮮明な映像はそれこそが我々が生きる世界なのだと、明確に突きつけてしまう。思い通りにならない他者に対しての制圧はとどまることを知らず、「帰れない故郷」という言葉は様々な状況下で世界中に、そして日本においても深く突き刺さる。


亡命後共産党書記長に就任したゴルバチョフが彼の名誉回復を宣言し帰国を認める声明を出したものの、拒否したらしい。'91年ソビエト連邦が崩壊したときに故郷で存命していたらどんな想いを抱え映画として表現しただろうか。「サクリファイス」撮影中に末期癌が判明、'86年12月に54歳の若さでパリで死去。
最後に観た光景は「ノスタルジア」のラストシーンと似ていただろうか。



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ノスタルジア」いえばこのスチール写真なんだけど、今回のリバイバルでは一新されていて違和感・・・

コレ、2020年の"ハマスホイ"展の影響だと思うの・・・言いたい気持ちはわかるけど内容の印象付けには合致しないのでは。じゃあワイエスは・・・
画像元→ノスタルジア(1983) : フォトギャラリー 画像 - 映画.com



劇場に貼られていた各国ポスター。


上映館は都内だとbunkamura、といっても建替で移転したのは閉館した渋谷TOEIを居抜きで改装した場所。階下は家電量販店で特に鑑賞後ヤダなあと思ったけど、階段降りれは無問題、真下が渋谷駅出口なので地下道歩けるのも良い。
ロビーの狭さは仕方ないとして、落ち着いた雰囲気だけど素材にイマドキ感があるし、ナディッフセレクトの書籍もちょっとあるし、良かったです。
mag.tecture.jp


この時計に新橋文化劇場を思い出した!んだけど、『劇場スタッフから「お客さまから映画の上映終了時間を尋ねられることが多い」と聞き、用意されたもの』なのね。





本棚の奥にある「Instant Light: Tarkovsky Polaroids」をどうにかして取り出したい・・・


そうそう。

EDWARD ARTEMIEVによる「ストーカー」「鏡」サントラの再録レコード再発がこのタイミングでリリースされたので購入したのダ!