八月の鯨

会社帰りに慌てて駆け込む岩波ホール。この映画をこの歳になって初めて、それも映画館で見ることが出来てよかった。
やわらかな気品に満ち、凪のように穏やかで(でもざわめきを何処かに隠した)映像には、彼女たちが過ごした長い長い歳月がそのまま染み込んでいた。
名言は確かにあるけれど、言葉よりも映像が雄弁に語っていた。キラキラと輝く海。高台にひっそりと佇む別荘。調度品や小物や服装のひとつひとつに丁寧に暮らしてきた日々が伺えた。そしてなによりも彼女たちの表情から伝わってくるものが大きかった。
白髪になって足がおぼつかなくなり身体に失うものが増えたとしても、ささやかな喜びを毎日見つけながら、八月の海に鯨を見る日を待っていようと思う。

八月の鯨 [DVD]

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