ホーリー・モーターズ

冒頭、これから「映画」が始まる…!と期待が高まるも、「映画」を「解体」したかのようなシーンが続き戸惑った。彼の身体能力をフル活用し繰り出される映像はまるでコントのようで、この10数年にいったいどんな境地へ行ってしまったのかと考えつつも、あまりに可笑しくって変な映画を作ったものだなあという気持ちでいっぱいになる。
ドニ・ラヴァン七変化。かつてカラックスの分身であった彼はここにはいない。カラックスが取り憑かれてしまった「映画そのもの」になってしまった。解体したのではなく、もっともっとその芯へ、深淵へと近づいてしまった。
なんとも恐ろしく、滑稽で物悲しくも、実にタフだった。知能と感覚が渦巻いていた。シーンの断片がシャッフルされては浮かんでくる。なんて強度があるのだろう。飲み込み辛いと思いきや浸透力が強いみたい。未だにクラクラしてしまう。
好きと両手を掲げてはいえないし、むしろ私とは遠くに存在する世界のようにも思える。けれど、それでも、手を伸ばしたい。
カラックス自身ではなく、数多の映画と、ドニ・ラヴァンという役者と、カテリーナ・ゴルベワという役者でありパートナーへの愛が込められたことに涙する。
ミュージカル調の美しいメロディを奏でる“Who Were We?”はディヴァイン・コメディの作曲なのだなー。その他音楽の付け方が鮮烈で、視覚からくる衝撃に負けない強さが素晴らしかった。
ユーロで見たけれど、場内は若い子が案外多くて驚きつつも、良かったねえと誰に向けてるのかわからないことを思ってしまった。