古いマンションの階段を上がり重いドアを開けるとそこは陽がいっぱいに差し込む明るい部屋だった。
奥の間のギャラリースペースではイラストを壁に貼っているところで、その個展はきょうからだった。貼っているのは作家さん。ひょろっとして朴訥とした彼に見ていいですかと声をかけると勿論どうぞまだこんなんですみませんと返される。
光が一面に広がる白い空間に鉛筆で描かれたシンプルな線の絵のかわいらしさは素朴さとファニーさがあって、後ろで作業をしている彼の印象と重なった。
それにしてもここの空間はここちよい。それも午後の早い時間。ひかりの入り方がすこぶるよい。人通りの多い道沿いなのにそれを全く感じさせない静けさ、ただ静かじゃなくって時折聞こえてくる車の音もいいアクセント、立ちすくんでいるとあたまのなかが空っぽになっていく。
でもきょうはかすかに列車の走る音が聞こえてきた、この近くに線路なんてないのに?
それは傍らに置いてあるmacbookからの音だった。雪が積もった山間地帯を走る列車ががたんごとん、深い緑と白い雪、左から右へ流れていく車両、このリズムが更なるここちよさで私を包む。