春のはじまり

このところ徐々に深まっていた鼻の奥をつんと刺すあの感覚はついにからだ全体を包んだのだった。冷たさはまだキンッと感じるけれども尖った痛みはもはや無く、湿り気を帯びてもあんと漂う空気のやわらかさとそのニオイの強さにからだの動きを止めてしまった。それはちょうど立春の朝のことだった。
帰り道の空の色は青かった。道端のコブシの蕾はぷっくりと膨らんでいた。
そんな春のしるしには殊更こころがきゅるんきゅるんとするのです。
きょうは晴れてお散歩、きもちよく澄み渡る空のした揺らめく光を浴びながら目につくあれこれにいちいち声を上げ気を取られながら歩くことはほんとうにしあわせで、きゅっきゅスキップしてしまう。そしたら目の前に、

桜!河津桜という早咲きの品種らしいです。空の青に桜色はなんて映える組み合わせなのかしら!こころのスイッチがぱちんと点いて更に歩く。

こんな不思議な路地があったり、

電車が望める素晴らしい坂があったり、

猫がいたり。
家先の梅の花や枝の影、店の古い看板や工事中のお詫び看板、家と家の間のタイムパークに建設中のマンションやオフィスビル、初めて通る道は新鮮な楽しさで、通ったことある道はその変化に驚いたり、行き交う人々の表情や聞こえる会話のはじっこをつかまえたり。路地を覗いてはコレはよい顔をしているぞと進みゆきコッチはどうも気が進まんねと通り過ぎる。

地下鉄乗って辿り着いた茗荷谷から神楽坂経由して靖国神社抜けて麹町永田町赤坂見附そして青山一丁目まで、てってこひゅるりと歩き通してしまった。こっくりとしたカスタードが美味なシュークリームが燃料となり、途中瑞々しい粒餡の桜餅をついばんで。ついついこんなに歩いていたのはいつものウオーキングハイのせいではなくって、きょうの空気そのものがわたしの足を止めさせてくれず、ただひたすら楽しかった。