ディア・ドクター

人の、人と人とのあいだの、なんとも「曖昧で傲慢で滑稽な」境界線が巧みな脚本で描かれていて、さすがな作品でした。絶妙なキャスティングとそれに答える演技も含め、隙がないほどに。
しかし、終始居心地の悪さに包まれたのは演出による「正しいもの」なのか「足りないものがあるから」なのか、なんて思ってしまう。映画としてどう表すかという点において、深く喰い込んでるようで喰い込んでいない「整頓された」印象が残りました。「観客の想像に委ねます」的なように受け取れもしますが、結局のところ一本の花道をつくっている「用意周到具合」に素直にハマることが出来なかったのです。監督はすごく真面目なかたなのだろうなと思いました。
そんなふうに見ていたので、ラストシーンにふわっと浮き上がって救われました。
人間の嘘と誠だとか、僻地医療の問題だとかが語られた映画かもしれませんが、飄々としたラストにこそ大切な部分が込められているようで、次回作こそ楽しみな作品になるのではないかと思えたのです。
最後にもう一点、冒頭やエンドロールの音楽に違和感があるのは個人的な趣味の問題かしら。妙に落ち着かない…。日本人によるブルースはべたっとしつつどこか軽い印象があって、と書くと映画に合ってるじゃんと思えてくるのだけど。