「私たちの好きな八月」と「路上 On the Road」

ポルトガル映画祭で見逃し続けた「私たちの好きな八月」をようやく見た。ポルトガルの山間の街が舞台。
なんだかとても不思議な映画で、こちらにスッと入ってこないようなヒネタつくりになっていて、でもなんだか妙にこころに残っている。繰り返されるポルトガル歌謡、おっちゃんがステージで唄う横で女の子がくねくね踊っていたり、橋の上で2人がキスをしている後ろに祭りかなにかの楽団が通り過ぎるのを遠くから捉えていたり、山火事の炎のなかに浮かぶ横顔のシルエットとか、緑に包まれたラストの監督と録音技師の禅問答とか、印象的なシーンがいくつもあって、それがどうしたなんだけど、この先ふっと、不意に思い出しそうな、そのときの私の空気を変えてくれそうな、そういう力を持っているような気がする。何かに似たようなとかではなく、自分がやりたいように作ったというこの感覚は、ポルトガルだからこそ生まれてくるのかな。

フィルムセンターに行ったのは久々だったけれど、思えば映画館が減って、出掛ける映画館がすっかり変わってしまった。見たい作品がレイトならまだしも昼間だけの上映だとか、公開2〜3週目で終了してしまうことが多くなって、見逃すことも多々ある。客を待っちゃくれないよね、そりゃ。でもきっとまたスクリーンで(勿論デジタル上映じゃなくて)見る機会があるだろうと思う。そう思いながら、昨夜はデジタル上映に変わった作品を見送ってしまった。代わりに向かったシネコンの、フライドポテトのニオイ。


先日、神保町へ向かう際に少しだけ時間があったので、竹橋の国立近代美術館に立ち寄った。現在クレー展が開催中だけど、2階ギャラリー4での企画展「路上 On the Road」を見に。とても面白かった。このタイトルはやはりケルアックから来ているようで、それを思うとちょっと気恥ずかしくなるケド、『長い距離と長い時間という二つの要素を、いかにして圧縮し、美術作品の限られた形の中で表現するか、という課題に取り組んだ』作品(『』内公式サイトより引用)を集めたキュレーションが素晴らしい。
楽しかったのはエド・ルシェー「サンセット・ストリップ沿いのすべての建物」と木村荘八「アルバム・銀座八丁」。前者はロサンゼルスのサンセット・ストリップ・後者は銀座通りの両側をズズズーっと撮影し、なが〜い1枚に仕上げている写真集。眺めるだけで散歩気分!銀座の街並みの変わらないところ・変わったところを見つけるのも楽しかった。
宮本隆司の映像「The Crossing」は1975年、マンハッタンの交差点を次々にぐるり360度撮影し続け、それを繋ぎあわせたもの。光が美しくてうっとりしてると、目の前がぐるぐる回るもんだから酔ってくる。そうやってぐるぐると私の脳に刻まれていく。ふっと私を刷新してくれた展示だった。