住むなら富山

3月の終わりの嵐の中で「そうだ、富山に行こう」とY氏が叫び、1週間後の金土日に行って参りました。
そもそも「大のホタルイカ好き(ボイルはNO)」なY氏が「春に富山旅行」を熱望していて、漸く実現することになったのでした。ホタルイカだけではなく、市街地には路面電車が走っているのも大きなポイントなのでアル。
周辺都市も合わせて3日間の短い旅ですが、いつも通りの散策記録を始めます。


駅舎は現在建て替え真っ最中、北陸新幹線開業に向けてガラリと変貌しそうです。ポストには薬売りの銅像がちょこんとお出迎え。

目の前を通り過ぎるは路面電車、いいないいな列車が街を走る風景!といってもここで乗らずにまずは足で富山の街を知ることにします。駅から続く広い通りを歩きながら、これまで出掛けた地方都市とは何かが違うなあとぼんやり思っていました。
あー、呑み屋さんが多いなあ。けれども個人商店のこじんまりした店構えは意外と少ない気がします。それに喫茶店が全然ない!よく街角にあるよな、年配夫婦でやってるようなやつすらない。全体的にいわゆる老舗が殆ど見られません。そのせいか古い建物が醸しだすよな厳かさもひなびた雰囲気もなく、かといってま新しいビルが立ち並んでもいない…。すっきりとした印象があります。

富山市終戦直前に大きな空襲を受けたことで「当時の市街地の99.5%を焼失」したそうです。城下町として形成された道なりや代々受け継がれてきた家屋も無くなったなかから、この街がつくられてきたのです。古い歴史を持ちながら何もない焼け野原になったところから立て直し、今日に至るわけで、これが「他の都市とは何かが違う」所以なのかもしれません。

今富山では公共交通網を軸とした街づくりが進められています。

セントラム!2009年に新設軌道と既存路線を組み合わせて開業した環状線を走ります。すうっとした姿が素敵。



こちらはポートラム。2006年に開業の日本初の本格的なライトレールです。駅のデザインがすっきりと洗練されていて素敵。ありがちな広告はなく、全面のボードには地元企業がスポンサーとなって地域の歴史を教えてくれます。

それと路面電車の各駅に公共自転車ポートがあり、30分以内なら無料で利用できるそう。電車を降りて「ちょっとそこまで」という使いかたも出来るのです。自転車レーンもシッカリゆったりあります。

自転車が「ママチャリ」っぽくなくて「なんだか乗りたくなる」感じでイイなー。

そう、車両や停留所を始め、周囲の環境に至るまでトータルデザインされているのです。黒・グレー・青の色調が富山の風土にあっているように思います。ああそうだ、地方都市にありがちな「ゆるいファンシー具合」があんまりないんだなー。

このようなひとつひとつが、観光客ではなく、長年暮らす市民のことを考えたうえでのことだと気付かされます。路面電車や公共自転車を「観光の目玉」にしているのではなく、あくまでも「住みよい街」をつくるためのものとして存在しているのです。


富山は「1世帯あたりの乗用車保有台数が全国第2位」で、いわずもがなドーナツ化が進んでいますが、今後ますます高齢者社会が進むにあたり「自動車が使えない」人々が出てきます。また市内に「拡散」した状態では除雪やごみの収集などの公共サービスのコストが増加するのに、人口が減少し税収も減っているのです。
そこで、公共交通を整備し、駅や停留所からの徒歩圏の魅力を高め、住みたくなる街づくりを始めているそうです。そのため建築費用や家賃補助を行うことで都市地区への移住を促し、2006年には中心市街地の人口は増加に転じたとのこと。

この「改革」ともいえる政策に乗り出した森市長によるこれらの言葉に納得します。
「空襲で市街地の殆どが燃えてしまった富山は、何百年も前の建物を残したまちづくりはできないのです。しかし市の中心部に広場があり、路面電車が走り、自転車の利用が高い街なら、作ろうと思えば作れるのではないか」
富山市の観光資源の水準はそれほど高くありません。金沢や高山を超える吸引力はないし、そこを目指してはいけないと考えています。むしろポスト新幹線を睨んだ場合、高山、能登白川郷、金沢などを周遊する観光客に向けて、ゲートウエイ機能を強化することが重要でしょう」

確かに、失礼ながら富山市内に観光スポットはあまりないように思います。だからといって観光客を誘致するハコモノを誂えるのではないところが素晴らしい。そんな一時的に消費されるモノなどなくてもよい。無い物ねだりではなく、ではどうするかという立場から始まっていることが、他の都市にはなかなか見られない考え方だと思います。

そして何よりも海産物など食べ物がほんとうに美味しいし、就業率や持ち家率も高いし、住むにはほんとうにいい街なのかも…と店のご主人たちとお話をして、その思いを強くしたのです。先に「個人商店が少ない」と書きましたが、そんななかで営業を続ける店はとても個性的で、良い意味で頑固な店主さんたちに出逢ったのです。それは次の回に。

富山駅の本屋で見つけたこの新書を参考にしました。たくさん発見があってとても面白かったです。