「青べか物語」が描いた浦安という街

神保町シアターにて。見たのは7月で今更ここに記してすみません。浦安散策をした数週間後にこの作品が上映されて、ナイスタイミング!と見に行ったのでした。
原作:山本周五郎/監督:川島雄三森繁久弥演ずる主人公は流行作家であり、東京からバスに乗り、川を渡り橋を抜け、漁師町の「浦粕」にやってきた…。”異世界”に入っていく導入部は「洲崎パラダイス」や「幕末太陽傳」などにも通じる川島監督ならではの世界観。とにかくもう、今作の冒頭のこのくだりだけでノックアウト。
「浦粕」は「浦安」を文字ったもので、実際にロケも浦安で行われていますが、東京から浦安までぐぐぐっと空撮で撮られた風景に度肝を抜かれます。ここで映し出される昭和30年代の浦安は広大な湿地帯が広がる寂しい田舎町で、とても「夢の国」が出現するとは思えません。
撮影は昭和37年、当時の浦安は工場排水により漁場の汚染が進んでおり、昭和46年には漁師が漁業権を全面放棄したそうです。ここから一気に街のかたちが変わっていったのでしょう*1
このあたりの歴史(ほんの50年前ですが)については浦安散策時に知りましたが、今回見たそのころの映像に先日歩いた今の街並みを合わせることが出来、より面白く興味深かったです。「あ、あの運河沿い、歩いた!猫がいたとこだ!」って、何度もワクワクしました。
今もまだ船宿が残っていたし、川には小舟が浮かび、ごちゃごちゃと家々が並ぶ古くからの漁師町ならではの街並みではありましたが、”防災”の名のもとに「まちづくり事務所」が出来、旧家の取り壊しが目立ち始め、道路が新設されるなど変貌がどんどん始まっている状況でした。そして大きな通りを抜けたところにあった新興住宅街は敷地も広く立派な家々が並んでいましたが、報道にもあったように液状化が進み、各家の門や道路などまだまだ修復されていない箇所がかなり目に付きました。昔のこの街の映像を見れば、そりゃそうなるよな…と思わざるを得ません。。。
川島雄三監督作というだけでなく、記録映画としても後世に残すべきと思いますが、ソフト化されていないことがほんとうに残念。今回は5周年を迎えた神保町シアターがあらたに焼いた作品を集めた「ニュープリントで蘇った名画たち」をいう特集上映でしたが、このままフィルム大丈夫かなあと心配。

この作品で描かれる人間模様はひどく猥雑で滑稽で寂しく、そして逞しい。混沌としながらもどこか優しい。森繁を通して私もこの漁師町を旅しているようでした。

*1:「夢の国」のwikiによると、昭和49年に本国の会長が来日→昭和56年には建設工事が開始され浦安町が「浦安市」に→昭和58年に開園、ってなんかも、スゴイ展開ね!