ヤマジカズヒデ / over sleeper

over sleeper

over sleeper

ヤマソロ1stと2ndを聴くと、一人暮らしをしていた杉並の6畳和室に未だに誘われる。周囲がぐあんと変容し、漂ってくるのは沈丁花の薫り。アールグレイの紅茶*1の薫り。ひとりぼっちの部屋に侵食していく音・・・。あれから私の生活はいろいろ変わったけれど、この2枚のアルバムはいつだって傍らに共にあった。
実に21年ぶりというソロアルバム。須藤俊明さんの存在なくしては作り得なかったアルバムだという。長年のつきあいである本庄さんのドラムに、石橋英子さんのピアノと山本達久さんのドラムも加わり、ソロとはいえ充実したバンドサウンドになっていた。
阿佐ヶ谷のアパートでギター爪弾き周囲に壁を作っていたような「ぽつんとひとり」なヤマソロが、時を経て、理解者であり技術者である幾人もの仲間と共に製作したアルバムになっていることが感慨深い(キモくてすみません・・・)。何年か前の亀コアでのライブを思い出したなあ。

peace music 中村さんによるマスタリングの成果もあるのだろうか。場の空気を含んだ音の良さは特出もので、生々しくて音そのものを掴めるような感触がある。ギターは勿論のことベースもドラムもピアノも鳴りと余韻には驚くほどで、絶妙なアンサンブルが更に引き立っているし豊かな演奏には熟練故のまったり感はなく、「来年50歳*2!!!」のミュージシャンのアルバムに思えない瑞々しささえあるのだ。


1曲目はソロソロと水面を揺らすメランコリーな音色。静かにこの場の空気に入り込んでく。中盤でグワッと上がる音が感情の昂ぶりと呼応する。

2曲目はいきなりガッと違う音世界。こういう流れが実際のライブっぽいなあと感じる。5曲目まではどっちにも行き着かない、ちょっとした淋しさを残すよな、そんな感じの唄モノ。

6曲目はLee Hazlewood & Nancy Sinatraのカバー。本来はデュエットだけど一人で唄っている。ライブで初めて聴いたときの、震えを今でも思い出す。演奏が終わった直後の静寂、とんでもないものを聴いてしまった!って会場中の空気が忘れられない。ギタープレイが更に激しさを増し、スドウさんのピアノの入り方その凄みとかホンジョウさんの熱くならないドラムがサイコーにカッコイイ。

その熱も冷めやらぬまま7曲目、引き継いだ熱を徐々にヒートアップさせる演奏で、刻み転がる音がメチャクチャかっこいい・・・。家で聴いていたらもう狂いそうだよ。とても根源的な音だなあと思ったらタイトルが「pray for the sun」で、なるほど。ヤマソロライブでやったPink Floydの「set the controls for the heart of the sun」、ギターとホンジョウさんのドラムだけとは思えない、尋常でない音にのたうちまわる凄まじきカバーなんだけど、あの曲の世界観を「ヤマジカズヒデ」として表現したのかな、と思った。ライブ演奏をきちんと収録した動画をアップしてほしいと切実に思う。そしてライブで聴きたい。

そういう曲の後の9曲目「宙を撃て」には泣けた。イントロからして心の縁の薄い部分を震わせ、動きが止まってしまう。そこに入るヤマジさんの声がもう、ね、、。反復反復反復でもう、ほんとに、ウワー!と気がオカしくなってしまう。ふっと「weekender」以降の、ヒリヒリして疲弊してゆっくりと旋回してる様を思い起こした。でも、あの頃と違うのは音色がもっとずっと豊かなの。いろんな人と一緒に鳴ってるの。こんな曲はヤマジさんにしか作れない。

そして10曲目「遅い痛み」、このタイトル!この歌詞!この言葉も随分前から合ったけれど、あの頃ならばこうは鳴らなかっただろうな、って音だった。

12曲目「hypnopedia」、ヤマジギターの真骨頂!だけど最新型!この刻み、とろみ、歪み、轟き、増幅し、循環していくギター。


戦略的なミュージシャンならばタグとキャッチコピーが付く、一聴してわかりやすい歌詞と音を作り、世の中を語り、刺激的に声高に表明するだろう。バズればそれでいいのだから*3
しかし「over sleeper」は違う。一言で「こういうアルバム」と伝えにくく、聴き手の音楽趣向によって印象が異なりそうなアルバムであることが、ヤマジカズヒデの個性だと改めて思う。例えば7、12曲目のようなのだけでアルバムにしないところ。歌詞に共感を求めないところ。インタビューでも自作について上手く語ることが出来ないヤマジさんを、私は信用するのです。
じわじわと体に染みていく遅延装置内臓の遅効性ある音は、私と共に眠りながら生きていくのだ、これからもずっと。
最後に。ホンジョウさんの復帰を静かに祈っています。


【これまでのヤマソロライブ記録を少々】

*1:ダージリンじゃなくて!

*2:そう、25日はヤマジさんの49歳の誕生日でした。

*3:プレゼン力?ビジネス新書化する日本のバンドシーンは結局ヤンキー上等な精神論なんだなあ、押忍