ヴィルヘルム・ハンマースホイ展

朝も早々に家を出て、徐々に葉が色づいてきた上野公園の木々のあいだを通り抜け、久しぶりに国立西洋美術館を訪れる。
楽しみにしていたハンマースホイ展。北欧の空気と光がそのまま封じ込められた、素晴らしい作品だった。曇天のくぐもった空。灰色の柔らかな厚みに息を張りつめる、なのにからだのどこかが弛緩してゆく溶けてゆく、不思議な緊張感に満ちている。拡散する乳白色の光。誰かがいる、けれど誰もいない。気配そのものの絵。一枚の絵にかけられる日数はどれほどなのだろう。そのあいだに流れた空気がむあんとキャンバスのなかに留まっていて濃密なはずなのに驚くほど希薄で静謐な世界、ハンマースホイが作り上げた彼だけの世界、長い年月が続きながらもパタリと止まった時間がそこにあり、自分の足元がぐらついていることにも気づかないまま、見とれるしかなかった。