満月一歩前の夜

月がきれいな夜だった。

まんまる、でも明日が満月の夜。そのちょっとだけ欠けているところを埋めるためなのか帰りに寄り道遠回り、根津で地下鉄を降りた。言問通りを歩いてカヤバの横を曲がって、


オーギョーチィの向こうに月が。



SCAI THE BATHHOUSEにてダレン・アーモンド展を見る。
イギリス人の彼が日本を旅して満月の夜にその月明かりのみで長時間露光で捉えた写真のシリーズ作。今夜見るのにぴったりだ。
幻想的な煙漂う静寂な世界。もあんとしたはじっこのやわらかいひかりに吸い込まれそうだった。
西洋人が日本を撮るということで想像される「日本的なるもの」は、丹波比叡山などまさに"スピリチュアル"を感じさせる土地で撮影されることにより一層印象が形づくられる。でもその神秘的な風景からはひとくくりに出来ない空気が醸し出されていた。
真っ暗闇の静寂のなか撮られた写真。目の前にあるのに実際にはけっして見ることができなくて、満月の光が長時間蓄積されたことにより写し出された風景。そこにはこの地の長い長い年月が寡黙に刻まれていて、住む人々の訪れた人々の数だけの時間がじゅっっと刻まれていて、ダレン・アーモンドがそれを引き出したような。滲み出た空気はじわじわと浸透してゆく、じりじりと奥底へ、ここであってここでない、こころの奥底にある風景にまで辿り着き、私を震えさせる。蓄積されたひかりが皮膚の下に蓄積されていくのを感じる。その音が聴こえるくらいに静かな夜。元お風呂屋さんの高い天井の下、私の他に誰もいなくて、時折近くの道を通る車のささやかなノイズが心地よくからだに響いてくる。ダレン・アーモンドに刻まれた感覚の追体験なのかもしれない。もっと明かりを落として見てみたいななんてぼんやりしながら何処かで思う。


今夜の「月」を思い出しながら聴く音楽。

With Ghost

With Ghost

A Dream of Blue

A Dream of Blue