ギャラリ鑑賞記録〜乙女とノイズ:小林かいちとENSEMBLES 09

既に会期終了しているものを今更、すみません…。

謎のデザイナー 小林かいちの世界

甦る小林かいち―都モダンの絵封筒

甦る小林かいち―都モダンの絵封筒

小林かいちの世界―まぼろしの京都アール・デコ

小林かいちの世界―まぼろしの京都アール・デコ

竹久夢二経由で数点知っている程度であった小林かいちの展覧会が、地味にニューオータニ美術館で開催されておりました。ここはたまに地味に良いオトメ的展示をしてくれます*1。(ルーシー・リーとかね)
東の夢二、西のかいちといったところでしょうか。大正後期から昭和初期にかけて活躍した図案家であり、まさにこの時代の持つ独特の世界感が表れていました。
ここ日本の畳の上で、ビアズリーとバルビエを夢見てるようなアールデコ調のデザインは完成度がとても高く、モダァン。流麗で叙情的で、禁欲的でもある…。
滑らかな曲線は途切れること無く空間を舞い、夕闇の曖昧な色調はそのまま乙女心に繋がるのです。木版画ならではのぼわあっとした微妙な色は青〜紫にかけての繊細な表現に見とれてしまいます。金や銀のラインが施されているのもまた良いのです。
それぞれにストーリー性もあって、不安や嘆きといった不穏な空気に包まれているのですが、それもまた乙女心。
女性たちはみな、うなだれてそそそと泣きながら待っている。海に揺れるゴンドラを眺めて、夜空にきらめく星を眺めて。うっとりと佇む薔薇の園で、茨が刺さって流れた深紅の血は葡萄酒となり、月の光、蜘蛛の巣や十字架、廃墟、トランプといったゴシックなイメージも素敵。
こういった封筒や絵はがきのデザインを多く手掛け(職人…!)、当時の女学生にたいへんな人気だったそう。頬を赤らめながら選んで購入して、遠くから眺めているだけの好きなあの人への文をしたためては、ひきだしに仕舞ってしまう…かいちが描いた世界そのままの出せなかった手紙を妄想してしまいます。
胸いっぱいになって、何度も何度も会場内をぐるぐるして、はちきれそうになるのを堪えながら鑑賞しました。ああ素敵だったなあ。。。
http://www.newotani.co.jp/group/museum/exhibition/200907_kaichi/index.html


「ENSEMBLES 09 休符だらけの音楽装置」展 EXTRA

大友良英さんによるインスタレーション、今回はSachiko Mさんも参加しての展示。会場はparabolica bis、雑誌「夜想」が立ち上げたギャラリースペースにて。なんと浅草橋という「夜想」のイメージには合わないエリアにありましたが、まさか「人形繋がり」だったりするのだろうか。(浅草橋は「人形の久月〜」を始めとする人形問屋の街なのです)
2フロアにわかれており、まず2階はSachiko Mさんの「I'm Here .. departures..」。白いガランとした小さな部屋、窓のカーテンはそよそよと揺れ、角にはスーツケース。シールがたくさん貼られてこれまでの旅慣れた異国の記憶を感じさせます。
サインウェイブは風のように、侵入者のように、そよぎ、轟かし、外からやってきたのか、ここにいて外へ行くのか、たったひとつしかない「瞬間」を立ち上がらせ、姿を見せぬまま私の鼓膜と皮膚に存在を残すのです。
…にしても暑かった。。。音に影響が出るからか空調も効いていなかったので、音だけでなく暑さで狂いそうになりました。


続いて1階のキツいドアを開けると、真っ暗な空間が。ぼあんぼあんと時折光が灯ります。
Filament(大友良英Sachiko M)+高田政義+musikelectronic geithainによる「Filament / 4 speakers」。さきほどが「白い世界」で開放感ある空間だとしたら、こちらは「黒い世界」で閉鎖的な空間で音は閉じ込められた空気そのものだった。音圧や音自体への興味深さは現代美術館でみた池田亮司とは違ったカタチで存在していて、固まった空気が次第に変容していく「空間」を楽しみました。


音が鼓膜だけを伝わってくるのではなく、「空間」を伝わってやってくるということ。

*1:でも美術館というより展示室な場内なのに、入場料が高い〜。係員がいないせいか喋りながら見てるオバ様が多い〜。