珈琲がつくる繋がり

あちらこちらを歩いていると、いわゆる「街の喫茶店」が至る所にありました。オッチャンがスポーツ新聞読んでそうな、オバチャンがオシャべりしてそうな、「ウチの」喫茶店名曲喫茶もあればイマドキのカフェもあり、自家焙煎珈琲店もありました。

入り口にピカピカの焙煎機があり、ドアを開けるとヒゲを生やした優しげなご主人が迎えてくださいました。
慣れた手つきで丁寧に淹れてくださった珈琲は、苦味と酸味がバランスよくじんわりと広がって、とても美味しい。ゆっくりと香りに包まれて、すこしづつ味わいました。店内はさほど年月を重ねていないような新しさがあるのですが、不思議と昔からこの地にあるような落ち着きがあり、なんだか私はずっとこの店に通っているように思えてくるのでした。
東京から旅行で来たことを話し、「岡山は喫茶店が多いですね」というと、「確かに人口比率で見ると全国的にも数が多いらしいです」とのこと。しかし経営者が高齢化し、畳む店も多いよう。ご主人はもともと市内の老舗自家焙煎珈琲店にいらっしゃいましたが、おととし閉店してしまい、昨年ご自身で開業されたとのこと。さきほど「新しいけれど、昔からある」雰囲気に感じたのは、このことによるのかもしれません。
惜しくも閉じたその店で磨いた味を「継承」し、そこで吸った空気を保ちながらも、ご自身のものとして新たに生み出していることが感じられて、とても嬉しくなりました。
倉敷にも自家焙煎珈琲店が多く、実は行ってみたい店があったのですが、そちらはご主人が亡くなり経営者が変わってからは以前とは異なる様子。ううむ…

禁酒会館へようこそ。

続いて散策中、驚愕の建物に出会ったのです。

クラシカルな建物自体への驚きもさることながら、ききき、「禁酒会館」…?
ななな何?しかも聖書販売のお店まであるよ?どういうことー。
もう居ても立ってもいられず、中へ。

カレーと珈琲のカフェで、ギャラリーが併設されていました。外観同様、店内も趣きある雰囲気。奥は庭になっていて、石垣はなんと裏にある岡山城のもの!ひー!

苦味の効いた珈琲がキュッと身と心に響きます。一人客ばかりの静まり返った店内。BGMも無く、空調のザーっという音だけが聴こえてきます。ぴんと張り詰めた「穏やかな緊張感」がここちよくて、ああ、この空気、だいすきな感触だなあ…。
席でひとり、編み物をしているおばあさんがいて、その編んでいるものと同じテイストの小さな手提げかばんが一角で販売されていました。オーナーなのかなあ。ふと、とある喫茶店を思い出しました。少し遠い街にあるその店の主人も、ここと同じような空気の中で、接客の合間に編み物しているんだなあ。



入り口の階段脇にはこんな札が…。
「酒害相談部」…!ハイ、先生、あのワタシ相談したいことが(マジ)!

いったいなぜこのような施設がつくられたのだろう。帰宅後調べてみると、「禁酒会館」公式サイト*1がありました。
「聖書販売店」もあったようにキリスト教の信念に基づくものであり、大正時代に入り軍国主義が進む社会不安のなか、酒に溺れる市民に対してなんとかしたいと考えた運動家によるものだったのです。戦火をくぐり抜け奇跡的に残った建物は2002年には登録文化財に指定され、この「禁酒会館」の存在自体を「禁酒宣伝」とし、現在もNPO法人による酒害相談を開催されているそう(いざ!)(あ、ワタシは被害者です念のため)。

館内にあった食堂は昭和40年ごろに閉鎖されたのですが、登録文化財に指定された際にカフェとして復活、珈琲を淹れている方は、先に行った珈琲店のご主人もいらしたあの老舗珈琲店だそう…!この繋がり…!