古くて新しい街〜奉還町商店街

岡山市で繁華街というと駅の東口から城まで続くエリアになるのですが、反対側の西口へ出てみました。いかにも最近再開発されたばかりの、なんにもない空間と拡幅されたと思われる車道、そして真新しい高層ビルがピョコンとあります。その向こうにアーケード商店街がありました。
ここは奉還町商店街、「奉還町」とはチョット不思議な地名です。

洋品店に布団屋に靴屋などなど古くからの商店が軒を連ね、飲食関係などは現役で頑張っているようですが、シャッターが降りた店舗も多い今やよくある風景。


ところが、ふと目に止まったのがこのお店。

あら、カフェ。遠巻きに見てみると、単なるイマドキオシャレカフェではなく、自家焙煎珈琲をだしているようで気になり、入ってみることにしました。
天井が高くて広々、2階もあります(外から見ると2階の窓辺がいい感じですね)。なんだかふと、地元にあった家具屋さんを思い出しました。もしかしたらココも以前、そうだったかもしれません。
カリモクな椅子など、中古のいろんなソファがバラバラな統一性を持って置いてあるインテリアはまあ、イマドキ。しかしポイントはBGMのジャマイカ音楽。ゆるくのんびりした雰囲気によく合います。ボサノヴァだのカフェコンピだのをかけときゃいいや、ではない気持ちが感じられるのです。そして本棚には、ジャンルメチャクチャに蔵書がされています。いかにも店に合わせて調達しましたな付け焼刃じゃなくって。
カフェというのは「音楽と本のセレクトに店主さんのパーソナリティが伺える(それが無い店には惹かれない)」と常々思っているのですが、その点でこの店はいいなあワカッテルなあ好きだなあと、ココロにマルを付けました。時々ライブもやっているみたい。
珈琲もしっかり&あっさりな美味しさで、おうち用に豆を買いました。パッケージもかわいい。
いい店だったねえと外へ出て、まだ続く商店街を歩いていると、古着屋さんや雑貨屋さんなど若い人が始めたようなコダワリある店がちょこちょことありました。

中でも異彩を放っていたのはこの白い店。現代美術を扱うギャラリーでした。奥では最近出版された「通学路」というシリーズ写真集の展覧会が行われています。そういえばここはベネッセのお膝元。「現代アート」が日常的空間にふっと佇んでいるのは、直島をはじめとするベネッセのアート活動によるおかげかもしれません。

アーケードの向こうに見えた建物が気になり、ちょっと横にそれてみます。

こんな「長屋」ビル、商店と居住スペースがセットになったものですが、すっかり古びた姿で東京でもどこでもよく見かける建物です。閉まったシャッターの間に一軒、赤い庇がかわいらしいお店がありました。

ジャムの専門店!ショーケースには、いくつも瓶が並び、迷う迷う。ようやく決めたのは「甘夏とスパイス」、カルダモン・シナモン・ジンジャー入で爽やかな味わいだろうなあと。そういえば岡山はフルーツ王国でもあるのだなあ。


こんなクラシカルな喫茶店があったり、

ちょうど夕暮れ時、路地に差し込む光がやわらかく、界隈の雰囲気にしっくりあっていました。
佇まいは真新しくはないけれど、あ、新しいお店が出来てる。とか、ちょっと入ってみたいと思わせる宝物探しのような街。



舗装された歩道には青い鳥。
各地方都市は衰退しているのが現状で、古くからのアーケード商店街が各店主の高齢化と後継者難を抱えるなか、郊外に出来たショッピングモールに客を取られ、閉店が相次ぎ、「シャッター商店街」と呼ばれていることは社会問題となっています。私自身、いくつかの地方都市への旅でそういった状況をたびたび目にしています。しかし、奉還町商店街は空き店舗へ新たに若いひとが出店することにより、新しい息吹が感じられたのです。
これまでに商店街組合は廃業された既存店舗を買取しコミュニティ施設を建設、学生やボランティア団体には無料で貸出するなど、地域の人々とつながることで、この街がどうあるべきか見えてきたのかもしれません。テナント料を下げることで若い人でも出店しやすくなり、古い店舗の形状を活かした店作りが出来るのです。古いものを今に生かす方向性は、昨今の時代の変化にうまく沿ったともいえます。
とかく閉鎖的で「今までこうだったんだから」とカタくなに守るのではなく、「今、そしてこれから我が街はどうあるべきか」、世代を超えて共存しあう風景がありました。


「奉還町」という名前が不思議だったので調べたところ、江戸時代は城下町外れの町であったが、明治維新時に職を失った武士が、藩から与えられた奉還金を元手にこの地で商売を始めたのがその起源とのこと(wikiより)。しかし武士が慣れない客商売をうまく出来るはずはなく廃業が続き、結局戦後に開店した店が殆どらしい。という歴史をみると、城下町の商店街とはいえ比較的新しい街なのだな。先祖代々の土地と商売云々に引っ張られることの無いこういう背景が、今に即した街づくりに挑戦出来る所以なのでしょう。ますます興味深くなりました。