5 windows 吉祥寺remix


今回の爆音映画祭で必ず見ると決めていた作品。「吉祥寺の町内4箇所に屋外上映される各5分ほどの映像を見て回り、最終話としてバウスシアターで25分ほどの短編を見る」、これでひとつの映像作品となる。4つ×5分の鑑賞順序は無く、回る間に買い物しても何か食べても誰かと喋っても良いのです。散歩しながら見る映画。
「散歩しながら映画を見る」それ自体が「映画になる」、なんて素敵なことだろう。
これは元々、昨年の10月に開催された横浜トリアンナーレ関連の「港のスペクタル」という企画の一部だった。あれはほんとうに楽しかったなあ。そのときに見て感じたことはこちら。

瀬田監督が映しだす街の風景が好きだ。そこにはその街に流れているリズムがあるからだ。創作物である映画に合わせて街を撮るのではなく、映画と現実にあいだにクッキリ境界線を引かずに、街が人と一緒に呼吸をしている。

私が「散歩」好きなのは、点と点と点のあいだこそが楽しいからだ。季節の花々、草木の色、猫が寝てたり子供がはしゃいでたり、変な看板見つけたり。点というのはうどん屋さんだったりカレー屋さんだったり、映画館やギャラリーやレコードショップだったり、喫茶店だったりもする。
そこへ行く・見ること「だけが」目的なのではない。その行き帰りの道中含めて「映画を観る」だ、私にとっては。その気持ちを押し上げてくれるようなこの企画が楽しみだった。

10月最初の金曜の夜、横浜の黄金町を漂流しながら出逢った5つの物語。それは私の日々をふっと浮かび上がらせてくれるような魔法に満ちていた。5 windowsの向こうにもうひとつ、私の「窓」があった。

→ 「漂流する映画館 〜 5 windowshttp://d.hatena.ne.jp/mikk/20111007/p1

黄金町では「漂流する映画館」というコンセプトが前提で、建築関係のひとが絡んでいたこともあり「映画を鑑賞する場所」への問題定義が強く、結果的に「ハコ」が枷となってしまった部分が大きいように思えた。では今回、「爆音映画祭」上映作品としてどうするか? 映画をハコから開放して、吉祥寺という広い繁華街に解き放ち、虚構である映画が現実の街のなかで通りゆく人とともに呼吸していたのだった。

横浜の黄金町は2回くらいしか来たことがなく、土地勘がまるでない街なので散策する楽しみが新鮮だったけれど、吉祥寺はある程度知った街だから上映場所を聞くとすぐ「あ、あそこか」とわかるくらいだ。だから「迷う」楽しみはない。それに内容は把握しているから、4箇所をどう回るかで変化する印象、その「偶然性」に賭けた。しかし!事前に渡された地図にスチール写真が使われていて「どこでどの物語が見れるか」がわかってしまった!ガガーン!まあ、それはそれで良し。

結局のところ。黄金町で見たのとはまた違う感覚だった。黄金町の風景が吉祥寺に重なる。目に映る黄金町とあの日の黄金町の記憶が、吉祥寺を歩きながらの今と私がこれまでこの街で重ねた記憶が、平行したり入り混じったり。傘をさしながら見た映画。一緒に眺めた人々、通り過ぎた人々。楽しかったなあ。


「彼ら」はそれぞれあの川の流れる小さな街の何処かですれ違いながら、お互いの記憶をつくってゆく。声高に「繋がろう」と強いらなくとも、わたしたちは薄いガーゼを重ねあっているのだ。おんなじメロディを繰り返し反復し口づさみながら。
スクリーンの中の彼らのように、現実の私も誰かとこの街ですれ違い、共に眺め、互いの記憶をつくりだしているのだなあ。
"5 windows"は見た人の数だけ存在する映画だ。そして、瀬田なつき監督だからこそ、の映画だ。


今回も時系列で私の「5 windows」を紹介します。




バウスに集合。ここから始まる。雨。設営が遅れているようだし、珈琲が飲みたいなーとまずは喫茶店に寄った。

【1つめの窓】雨が激しくなってきた。コピス。2010年に閉店した伊勢丹の跡に出来た商業施設でまだ入ったことがなかった。この上映がなければ入ることはなかっただろうな。遅い時間のこともあるけど閑散としてる…。雰囲気もいわゆる旧来型のデパート然としてる。3階の屋上庭園へ、ドアを開けて傘を広げて。

おお!白い壁に大きく映し出されてる!すごい!雨じゃなければ気持ち良いだろうなあ。でも傘さしながら不特定多数で映画を眺めてるのも面白い。なんだかフジロックを思い出した。庭園を望むレストランでは食事をしている人がいるし、変な空間だねえ。ここでの上映は前回特に好きだった、染谷将太くんが「黄金町の川沿いを自転車で走る」話。前は謎のカフェの3階の空間でダンボールをスクリーンに見立てて見たんだった。あのスクリーンも好きだけど、今日の屋外のほうがやっぱり良い!ただ自転車が走る、それだけでなんて美しいのだろう。それに今回は音がスゴイ良い!雨粒のなかに電子音がピコピコと降り注いで、わー…なんなんだこの高揚感!からだがふわーっと浮かぶみたいだ。このなかで映し出される黄金町の風景は懐かしく、あの日歩いた道筋を感覚を思い出す。最後に赤い京急がすうぅっと走るのも良いんだよねえ。。。


コピスを出て、右を見ると東急だけど勿論左へ、

寄るよねえ、ユニオン!サクサクっと見て結局買わず。雨除けも兼ねてアーケードを通って駅へ、その向こうへ。

現在駅舎改良工事進行中。ユザワヤのあったビルはかつては「幽霊ビル」と言われてたよね。
雨が激しくなってきて、ウインドブレーカーや長靴を履いてくればよかったと後悔…

めっきりキレイになった高架下、この壁面で上映となると、車道のある北側よりも南側だろうなとトーアとの角を曲がると

【2つめの窓】おお!スクリーンが!物語は勿論これ。「黄金町駅で途中下車したオンナノコ」の話。黄金町のときは高架沿いの路地にある小さな空き地に隣接してる空き家の窓枠をスクリーンしてたっけ。あれ、よかったな。今回はなんというかスクリーンの印象が唐突で強すぎるかな、仕方ないけれど。向かいのビルの庇の下に結構人が集まっていたので、すこし離れたところから見る。映像の音は殆ど聞こえず、現実の雨音ばかり。赤の京急が映る上をオレンジの中央線が走る面白さよ。アテレコしてるみたい。

さてどうしようかな。脳内地図で動けるのは吉祥寺の利点かも。井の頭線の高架を抜けよう。

通り過ぎるのは、かつてボアがあった場所。シャッターは閉まっていても店内の東郷青児の絵画は思い出せる。

マルイ。ここも入ったことないなー。この辺りは信号渡る人とバスを待つ人でごったがえしててあんまり好きじゃない。この角を曲がると真っ暗な通りだけど

【3つめの窓】武蔵野公会堂。このエントランス好き。ピロティ部分が上映場所。出っ張ってる天井に映し出して見上げる格好。天気が良ければ寝転がって見れたかな。前回は高架の下から仰ぎ見た。音はヘッドフォンからで、やけに風鈴やライターなどの生活音が強調されバランスが悪かった。

見終わると、雨が上がってる!じゃあもう一回、さっきの高架脇へ行こう!

誰もいなかったのでスクリーン正面の軒下へ。ここにスピーカーがあるので映像の音が直に聞こえた。京急の列車の走行音。子供のはしゃぎ声。風の音。収録された音に被さるように、隣のパチンコ屋からガヤガヤと音が聞こえてきた。映像と現実が重なりあう。ふふふ、楽しい。オンナノコがこちらを見つめ、シャッターを切る。ゾクリ。


そして北上、ヨドバシカメラ横を入る。

近鉄百貨店から三越になったここを通ると今もdropを思い出してしまうのだよ(すみませんね…)
飲食店が建ち並ぶ路地を抜け、暗くなった通りを歩くとあのハミングが聞こえてきた!

【4つめの窓】吉祥寺図書館の角。館内のテレビに映すとはナルホド。音はかなりな音量で、上から降ってくる。前回の「上映装置」が辛かっただけに、今回のがずっと良い!橋の上。音の粒。光の粒。水の粒。揺れるワンピース。水色のサンダル。少女のキラメキ。瑞々しく透明感をたたえて、夜の吉祥寺の闇に浮かんでいた。最後、ハミングの音階が下がって終わるんだな。そう、か。
4本見終えて、これが最後で良かったなと思いつつも最終話の時刻まであと10分ほどある!じゃ、もう一度見に行こう、とコピスへ。


雨もすっかり上がり傘から開放されて自転車が走る映像に吸い込まれ、浮遊する電子音が私を包む。ああなんてきもちよいのだろう。居てもたってもいられなくなって、からだがふわふわと踊り出した!ダンスダンスダンス!ほわ〜としてたらふっと染谷くんのまなざしに射抜かれて、動きが止まった。そのままぼーっと自転車と電車が走り去るのを眺めてた。


【5つめの窓】最後にバウスで。これまで見た4つの映像が混じることなく重なりあう、まるで魔法にかけられたみたい。
髪のゆらめきが、少女の涙が、一瞬の明度の変化が忘れられない。あのフレーズをくちづさみながら駅へ向かった。夜遅いのに吉祥寺にはまだたくさんの人がはしゃいでた。


傘をさしながら同じスクリーン見上げた人、すれ違った人、この上映に関係なく吉祥寺にいた人、なんだこれ?って通り過ぎた人、立ち寄ったレコ屋や喫茶店や本屋の方々、監督や出演者の方々、スタッフの方々、みんなにありがとうございましたって言いたいな。それと、染谷くんとすれ違いたかった!


別の日に上映した、【5つめの窓】を再編集した劇場版(時間が長くなってる)は改めて秋以降に上映するそう。その頃は肌寒くなってるかな。どんな日にどこで見るのかな。