狼煙が呼ぶ

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「狼煙が呼ぶ」豊田利晃監督最新作は、たった16分間の作品。今年の春、拳銃の不法所持による逮捕がセンセーショナルに報道されたものの、拳銃は祖父の形見であったため、程なくして無罪・釈放されたことはほとんど報道されなかった。その返答として、準備期間ひと月半、撮影 3日間で制作。このスケジュールでこの豪華メンツ、このクオリティー豊田利晃監督の情熱が、意志が、熱く強く込められていた。

ある休日、午前ユーロスペース→午後アップリンク吉祥寺で一日に2度鑑賞した。スローモーションな閃光は古から放たれて、今轟き、未来へ届けられる。このイントロダクションを如何に奏でるかは、私たちの想像力次第なのだ。豊田監督の映画は危うさを秘めながらも不器用に立ち向かっていく。若かりし日も、今年で50歳になった今も。千原ジュニア演じる荒野が渋谷のスクランブル交差点を歩くあのショットから変わらずにずっと。
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ユーロスペースへ行く前に時間があったから久々の道を散歩した。90年代によく歩いてた道。思っていたほど変わってはいなかった。トウキョウソナタで使われたあの家はとっくにないし、坂道を下って吹き抜けたあの風も消えてった。
ユーロスペースで映画を見るのも久しぶりだけど、やっぱりホーム感あって落ち着く。16分は短いけれど長編映画を見たようなどっしりした重みがあった。顔顔顔。真面目な渋川清彦も珍しく、浅野忠信の不穏な笑みと存在感に震えたし、中村達也のパンクな眼差しのカッコよさ、オッサンたちの中で若々しい高良健吾の所作。切腹ピストルズによる緊張感と躍動感ある音、宮本まさ江による衣装も素晴らしい。ラストには「鬼武者」のCMを思い出したりもした。腹の奥からフツフツと沸く想いを抱えながら、井の頭線で吉祥寺へいざ。
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パルコ地下に出来たアップリンク吉祥寺には、ようやく初めて入った。スクリーン4で鑑賞しながら、ふとバウスシアターの小さいほうのスクリーンにいる錯覚に陥った。幸せな空間だった。音響はやはり、タグチスピーカなアップリンクのほうが美しかった。
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エントランスにこんな展示が。

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見終わってから近くの喫茶店へ。もうじき閉店してしまうのだ。受け皿に三日月が浮かぶホットコーヒーにするつもりが、予想外に暑くてアイスコーヒーに。ユニオンやココ吉でレコード買ってから寄ることが多かったな。ふとしたひとときをつくってくださって、ありがとうございました。閉店とはいえ、新たな場をつくってくださるとのこと。これからも楽しみ。

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さて、また別の日。シネマート新宿の大スクリーンでの上映、会社帰りにギリ行ける時間だったので慌てて急行。定時直前に投げ込まれた仕事を鬼の形相で片付けて、上映開始直前にスクリーンへ飛び込んだ。やっぱりデカイスクリーン、いい!音もドコドコ迫ってきた。山の鬱蒼した濃い緑に包まれて、私もこの神社にいるようだった。湿り気あるアトモスフィアを感じた。最高。ところで3度目であの神社は徳川家康を祀っていることに気が付いた。


全国のミニシアターで随時公開されるなか、上田映劇では「高校生以下無料」! 本作は「16分だけど1800円、時々ライブやトークがある」上映形態だったわけですが、こんな心意気。上映時間が午前中だったから、別に休日じゃなくても、平日に「2限目の授業サボって映画館行って16分間の作品見て、学校に戻って3限目の授業を受ける」って1日があってもいいのよ、って自分の高校時代を思い出して泣いた。そんなたった一日の冒険がその後の人生の支えになるじゃないですか、ね。

同時に発売された自伝「半分、生きた」、表紙は奈良美智。映画を通して繋いだ絆が綴られ、作品に関わりのあるミュージシャンなどが挿絵を担当。ここにヤマジカズヒデもいるのです〜〜。わーい。で、挿絵原画展が行われるということで更に嬉しがっていたら、前から行ったことのある店だったのでビックリ。
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もともと好きで伺っていた店に、大好きな人の絵が飾られる喜びたるや。
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ヤマジさんの絵のセンスが好き。ヤマ字も好き。

豊田利晃 自伝『半分、生きた』刊行記念 豊田利晃監督トークショー&サイン会 《東京国際映画祭2019開催週間》 | イベント | TSUTAYA TOKYO ROPPONGI | 蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設
このトークイベントは、ヤマジさんのライブがある日なので行けず残念無念。。。東京国際映画祭期間中に「狼煙が呼ぶ」屋外上映なんてあれば良いな。上に屋根がついてる広場で旧作の上映やってたはずなので、ライブ演奏込みでどうかなあ。海外の映画関係者もたくさん来るから、全く知らずに通りがかりに出逢って、目に止まれば嬉しいな。
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今回、1日に2回、違う日に1回、全て違う映画館で見た。それぞれの映画館で受ける感覚の違いも面白かった。ライブハウスやフェスなど、映画興行という枠組みを超えた上映を今後も続けてほしい。例えば変奏として、音楽:ヤマジカズヒデ版を見てみたい。ヤマジさんだけではなく、中村達也など複数のミュージシャンによるリミックス版的な上映も面白いんじゃなかろうか。正直言うと、今の生活だと1時間半〜2時間の作品を映画館へ見に行くことは難しい。でも16分だとスッと見に行きやすいし、なおかつ「映画を見た喜び」が嬉しかった。そしてトークやライブ込みの特別上映もしやすいのではないか。「映画上映とはこうでなければ」という当たり前を疑う姿勢が伝わってくる。

「ポルノスター」は1998年、あれからもう20年。渋谷の街もすっかり変わった。スクランブル交差点は外国人観光客の撮影スポットとして賑わい、桜丘は大規模再開発で町ごと無くなったし、宮下公園は更地になって商業施設建設中。ジャックナイフの眼差しで歩く場所なんて、無い。そしてヤマジさんが、たくさんのミュージシャンと共演したり活動の幅を広げているなんてあの頃考えたこともなかった。渋谷が舞台でヤマジさんが音楽の作品、今つくるとしたらどんな物語だろうか。


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