live:Sunday Paffce

ヤマジカズヒデ1stソロアルバム「sunday paffce」の再現ライブ”なんて驚きの企画が、下北沢Barrack Block Cafeにて。40人ほどの観客が鰻の寝床なハコにギッシリで、ソワソワがグッタリになりかけながらも、まわりの方々の気遣いもありナントカ持ちこたえていた。開演。幾重もの頭の山の向こうから聴こえてくる音は、20年余の間に耳に積もったソレと感触が異なっていた。
全く姿は見えなかっただけに、1曲目のピアノはたとだどしくて場内に笑いが溢れるような、フレンドリ―な雰囲気に戸惑った。けれどその後の演奏はしっかりと揺るぎなく、洗練されていた。波の上と下をパスッと切ったかのようにクッキリした音像。私の皮膚に滲み付いた、「遠い記憶だけど生々しくでも乾いた」音との齟齬。「粒子が粗く薄い膜が揺らいで消え入りそうな、若さ故のヒリヒリしたもどかしさ」とは違う地点で鳴る音を真っ正面から受け入れることが出来ない私は、あまりに幼く頑なで余裕の無いまま、対岸を眺めていた。それでも次第に少しづつ解り始めた。ああ、音の感触が違うんだ、あのアルバムはCDなのにレコードぽいんだなとか。。。そうか、耳に馴染んだあの音はヤマジさんがひとりでつくった、強烈にぽつねんと、ひとりぼっちな音だったけれど、今回はバンド演奏なのだよね。そしてひとりではなくたくさんのひとと聴いていることも、なんだか不思議な気持ちだった。狭い場内に集うたくさんの人と其々の交流に、私はオドオド萎縮してしまった。。。


そんななかスッと鳴り響いたこのフレーズは、、、「天使」だ。わああぁ、駄目だ、このメロディがこの唄声が切なすぎて、此の世で無いところで鳴っていて、震えてしまう。そして「sweet days」の、あまりに不安定で緩やかに堕ちていく様は柔らかくて、「公園」は穏やかだった。2011年のヤマソロで演奏したときに

「この「公園」はもう『違う場所』にあるのだなあということです。ソロの1stに収録されたこの楽曲には中央線の、阿佐ヶ谷の、あの界隈に満ちる”独特の空気”が染み込んでいて、聴くたびにぶわっとその「時間」が立ち上がってくるのですが、それがなかったのです。」(→http://d.hatena.ne.jp/mikk/20111204/p1

と記しましたが、思い返すと勝手に感じていたのは密やかな死の約束で、それはもはや杞憂なんだって思った。
「helpless」は前にURGAで本庄さんと二人でやったヤマソロのときのような、深い感傷が入り込まなかった。そこに至らないようにバランスを取っているようだった。ここで「sunday paffce」の楽曲は終わるけれど、続いて演奏された「blue bus」は深く沈んでいかないように、「after the goldrush」は高く昇り詰めないように、足が地に付いていた。ややもするとあの頃を思い出して引っ張られてしまうことだろう。しかし、今ここで鳴る音は明日へと続いている音だった。「ソロアルバムを出す」というから、いいタイミングだなあ!

それでもどうにも時空がおかしくなってしまったのは、「真空管」だった。明らかに空気が変容して、からだがビクゥッとして、何処かに行ってしまわないように手をぎゅっと握りしめた。そして「モラン」・・・!選曲に驚いたけれど、意外なほどに普遍的な佇まいだった。dip the flagのライブ盤でしか聴いたことなかったけれど、誰をも寄せ付けない細い針金の骨格に血肉が付き豊かな表情が備わったかのような。最後はlove to sleepな眠りに就くように。本庄さんはどんな想いでドラムを叩いていたのかな。

本庄さんのドラムはやさしく導く。須藤さんのベースはやわらかく辿る。水野さんのギターは双生児のように合わさる。プロフェッショナルな演奏は易しい想い出に浸ること無く、このアルバムの本来の良さを見事に抽出し、素晴らしかったです。
ソロアルバム新作、とても楽しみにしています。

***

【この数年来のヤマソロ感想ピックアップします】
ヤマジカズヒデ ソロライブ」→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20121122/p1

私はヤマジさんの唄声が好きです。ギターワークに隠れがちかもしれないけど、シャウトするときの、切ないメロディに乗るときの、こちらの胸の奥を掴むその、感じ。うまく言い表せないんだけど、いい声だなあ。(中略)「after the gold rush」では感触がこれまでとは全く異なっていたのです。私の弱い部分に刺さるような位置にはいませんでした。ふれられない空は「ふれられないように」佇む空ではなく、夕暮れの終わらない空を眺めるのでもなく、明日の朝を望む強さをたたえていました。

ヤマジカズヒデ+本庄克己 at URGA」 → http://d.hatena.ne.jp/mikk/20110916/p1
久しぶりのヤマソロは、音の佇まいに年齢と経験を感じさせる厚みと揺るぎなさがありました。ナカニシさんのドラムとは「波動が一緒」だとしたら、本庄さんのドラムとは「音触が一緒」なのかなあ。本庄さんの真摯な音がヤマジに伝わって、バンドでもセッションでもなく、2人でコラボレーションしてつくりだされる音でした。

ヤマジカズヒデ三軒茶屋heaven'sdoor」→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20101222/p2
pink floyd「set the controls for the heart of the sun」カバー!激カッコ良い!これにのたうちまわらない人いないよ!本庄さんのドラムの広がり具合も素晴らしくよい音で、そこに絡むギターの凄まじさ!!!なんなんだあれ。ただ狂っているのではなくて、しっかり「聴かせながら」も「はみ出ている」の。

ヤマジカズヒデ/亀戸ハードコア」→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20100828/p1
今回の演奏の感触は今や「ホームグラウンド」なこのハコと、サイドギターのミズノさんの音色のおかげかもしれません。メンバー3人のそれぞれと、空間・音響がしっかり噛み合っているように感じました。お馴染みの楽曲も今までにないやわらかな空気を持っていました。