live at shibuya www. 美しい音だった。
繊細さと強靭さを蓄えつつしなやかでたおやかで揺るぎない、今の、明日への、「意思」を感じさせる音。
かといってそれを知らしめるように自己顕示欲を振りかざす事は決して無い。あくまでも淡々と紡がれる音。
だからといって内に向いているのではない。ここで鳴り響く音は骨格こそ旧知でも、実に新鮮で、躍動感に溢れていた!この音に触れる喜びをどう伝えたらいいのだろう?
そしてギターの音色の美しさは洗練されていた。技術と感覚が一段と研ぎすまされ、過敏なほどに調整され作り上げられたものだと痛感する。
前半は新曲が続き、1曲1曲を丁寧に、確認するように丹念に演奏される音をぎゅっと集中しながら受けとめて、演奏が終わったとともに我に返り拍手をする、その繰り返し。だからか、ライブ全体を通して流れるような構成にはならなかったように思えた。1曲1曲ごとにズドン、とやってくる感じ。まだ我が手に染み付いていない楽曲をやるには相当の神経を使っていたと思うけれど、堂々としていて、昔よくあったような緊張感はなかった。そういえば私がdipならではだと感じる不穏な匂いは漂わなかった。恐らくは違うフェーズにいたからだろう。
新曲ではファルセットで唄われる*1穏やかな曲が特に素晴らしかった…。これまでがカラカラの荒野をあてどなく走っていたとしたら、新たな地へと出航し、空を弧を描いて舞う鳥を見上げながら、広い海原をゆっくりと進んでいるようだった。感傷によるのではない、普遍的な光を携えた曲。何日も過ぎた今でも時折不意に、あのサビが頭の中、旋回する。
過去の代表曲も懐古には決してならずに「今の音」で演奏されるけれど、怒濤の新曲攻撃とはバランスを欠いたかなと思いながら本編終了で物足りず…と思いきや、終わってみればアンコール2曲も含めた上での本編だったような構成だった。
アンコールはキーボードのクジさんも参加した即興で、反復反復の止まらないリズム! 木場フェス*2でのポーンと放りだされたよな粗野なトランス感とは違う贅沢な音触!なのにあのときのように音に溺れることが出来ない…。自在に作り上げられる音像の向こうにある映像が私にはどうにもしっくり来なく*3、、、視覚と聴覚に齟齬を覚えてしまい…ううむ。視覚というのは強い刺激なのだなあ。
そんな状態が続いてから、「蘇りの血」の再生を司るシーンがカットインしドキッとする。そこへ渋谷駅前のスクランブル交差点が映し出され、これは…と心拍数が上がっていくと”ジャックナイフ”の冷めて乾いた眼差しに射抜かれて、フラッシュバックし泣きそうになる。「ポルノスター」での、「空中庭園」での、「9souls」での、執拗な切り込みと血の雨と返り血が目に刺さる。「モンスターズクラブ」で再び帰ってきた渋谷のスクランブル交差点に降る雪は解放された末の祝祭のよう、、、そして、龍平の若さ故の邪気と諦めに満ちた眼光は時を経て「I'm flash!」でクールに引き締まり銃声を放つ!この一連の豊田作品の映像とヤマジさんの音が重なって、胸がいっぱいになった。更に、龍平の銃に合わせてマシンガンのようにギターを抱えて弾くヤマジさんとそれに反応してキーボードを抱えて弾こうとするクジさんとの姿にぐっと来て、とっても幸せな気分になった。
そして目の前に「9souls」の脱走シーンが映し出されてビクッとしたと同時に堰を切ったように畳み掛けられるフレーズは勿論、「9souls」のイントロ!全身がゾワーっと昂って、この瞬間を味わいたかったのだと狂喜した。凄まじかった。30分以上はやってたっけ?こういうの、また何処かで、アウェイな場所でやってほしいなー。
もう一度アンコール、テレキャスで奏でられたsludgeには、過去を見据えたうえで未来に向かうのだという気概が感じられた。
それと!映像ではドリームマシーンが出てきたとき、震えたなあ。。。記憶がぶわっと。
余談:でもこの会場はなんだか音の出方や広がりが良くない気がする…。縦横奥行きのバランスが爆音のライブにはなんかこう、キモチワルイなーと思ったのだけど。。そういえば、ライズだったときにジャームッシュによるニールヤングの映画見たことを思い出した。
来年発売予定の新譜はなんと2枚同時リリースだそうで!「howl」と「owl」、ヤマジさんらしい言葉遊びが感じられつつ、相当な傑作になりそうでめちゃくちゃ期待してます。
思えば今年のdipはこれまでとは明らかに違う方向に舵が切られたようだった。
まずは東芝時代のアルバム再発!
演奏することが「自己アピール」ではなく、「音楽を聴いたり演奏することが好き」という純粋な気持ちから始まっていて、それが今も(ここが重要)続いているように思います。案外そういうバンドって少ないと思うのヨ。"具体的なこと"を叫んだり語りかけることもない、ただ、弾くだけ。私はdipのそういうところが好きだ。→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20120313/p1
それを受けての「Re-issue 発売記念ライブ」
(演奏側と観客側と)双方の熱をまず実感したのは「faster,faster」(略)たくさんの観客が体内に受け止めた熱をワアァ!とステージに返す、その瞬間に場内に満ちた多幸感というか、たくさんの「dipへの思い」に包まれてぐっときてしまった。→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20120603/p1
更になんとビックリ、「トリビュート盤発売&ライブ」
「ずっと続けていくこと」、なんて重く大きな言葉なのだろう。それを実証したかのようなライブだった。→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20120831/p1
豊田監督作品の映画で音楽を担当した「ポルノスター」「ナインソウルズ」含む初期作品DVD−BOX発売&リバイバル上映、「ナインソウルズ」はニュープリント上映でした。
ジャックナイフで空虚なまなざし、ナイフの雨、スケボー。そんな映像に切り込むのは、ヤマジギターの鋭く重く、時に優しく切ない響き。”坂の途中で”鳴り続ける音。この映画にはdipがよく似合う。→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20120829/p1
それと忘れちゃ行けないのはumineco soundsの存在。
敏腕なメンツ4人それぞれの個性が存分に出ながらも誰が主役でもないこのバンドが、dipの変化に繋がっていると思うのです。→ http://d.hatena.ne.jp/mikk/20120621/p1
今年もdipの音を聴く事がとても楽しかった。来年は新たな地に降り立ってどんな音を繰り広げるのだろうか。
世の中はどうあがいても暗雲立ちこめるよな状況で頭をもたげてしまう。しかし、今dipが鳴らす音の先に希望の光が射すことに私は背筋を伸ばすのだ。