「珈琲時光」と御茶ノ水、神保町

神保町シアターにて特集上映「神保町、御茶ノ水、九段下 "本の街"ぶらり映画日和」が開かれ、「珈琲時光」が上映されると知ってとても嬉しくって楽しみにしていた。
上映初日の土曜日はひとり日だったので、よおし!と鼻息。心配された台風もなんとか大丈夫そう。まずチケットを取りにシアターへ。ここには珍しい若い子でロビーはイッパイ。この後上映される短編目当ての子たちは皆、主演女優さんが雑誌で見せる格好と同じような出立ちで、今もこういうのあるんだなあってなんだか懐かしかった。
それから御茶ノ水方向へ歩いてカレーを食べに行った。初めて向かう新しめの店。カウンターだけの狭いトコでひとりで切り盛りされている。ひよこ豆のが美味しかった。特別すこぶる旨い!ってとこまで行かないけど、職場近くにあるとルーティンで食べにいくだろなあ。
ぐるりと歩いて珈琲屋。ここも初めて行く新しめの店。古い家屋を使った店舗はイマドキの造り、珈琲はネルドリップで抽出だけど温度がめちゃくちゃ高くてびっくりした。
神田明神湯島聖堂、そして聖橋。

御茶ノ水駅を出発してゆっくりと弧を描きながら上がり勾配を進みアーチの中へ消えていく中央線、すれ違う総武線、眼下のトンネルからにゅっと顔を出す丸の内線。ああいいなあ。胸がきゅっとしてしまう。後ろを振り返るともわっとした光が空に溶けていた。

それにしてもこの界隈を歩くことは楽しい。坂道に斜めの道が交差して、大通りから一本ズレるとちょっと脳内コンパスもズレてしまう。角を曲がることに出会いがある。カレー珈琲音楽書籍、好きなもので詰まってるナア。そうして再びシアターへ。


珈琲時光」に惹かれる理由は言葉にしづらい。主人公のヨウコを説教したくなってきたりもする。でも。スクリーンから広がる柔らかな光の美しさと時の穏やかな流れを私は愛して止まない。そしてひっそりと息づく世界の佇まいが好きだ。写るもの/写らないものの取捨選択も。この10年の間に西神田のエリカは閉じ、有楽町のももやは閉店どころか辺り一帯ごっそり無くなってしまった。この作品に漂う薄い色彩の空気も2000年前半ならではのものだろう。時代の空気と街の風景を閉じ込めることは映画の役割のひとつだと思っている。