neue welt

neue welt

neue welt

dipの新譜「neue welt」を聴いてまず思うのは"Drums & Wires”ってことだ。XTCの3rdのことではなくて、ギターとベースによる周波数の異なる弦の震え、それを縦に貫くドラム、たったそれだけで出来ていて、シンプルだけど奥深いことに驚かされる。全編通して音の響きがとても美しく、余韻が胸に残り泣きそうになる。たっぷりと豊かで丁寧に奏でつつテンション高い演奏。曲によっては細海魚さんによるオルガンが深みと多彩さを与え、再録された楽曲も温度がまるで異なっている。”らしい”翳りと憂いが根底にありながら、その場で留まり眠り続けるのではなく、”新世界”を進んでる。カラカラの荒野を進んでた時期を経たこその、新世界。

ギターの硬質で乾いた風合いはそのままにしなやかで柔軟性が加味されて、目眩く様は混沌とならずにクリアでタフ。これまでにないフレーズの入り方が楽しい!更に微細な響きやブレ、揺らぎに歪みも空気の中で気持ちよく鳴っている。ギターはこんなにも多彩で美しい音色を持っているってことを教えてもらっているみたい。
ベースの音色がすこぶる良い!弦をハジいてる感触が耳に感じられる。推進力がありながらも押し付けがましくなく、これまでがドドドと底辺を突き進んでいたとしたら今回はウネウネしてて耳がハッとする。ベースラインを辿るだけでにまにましちゃうんだー。
ドラムは闊達でたおやかで、スタッと落ちるところが大好き。今作では軽やかさが増したように思う。そんなナカニシさんのドラムはヤマジさんのギターによく合う。重量とかバランスとかリズム感とか、そういうのとても大切だなーと改めて思う。

新しい宣材写真、あれすっごく良い!リビングで、壁一面にCDやレコードが並んでて、何をかけようかなって見てるのがナガタさん。ソファにどかっと座ってるのがナカニシさん。煙草を手に今から吸わんと灰皿取ってるのがヤマジさん。ひとつの部屋のなかでのこの光景こそが、今のdipなのではないだろか。こういうショットはバンド用として普通は使わないだろう。けれど今のdipの3人の、ベストな関係性がクッキリと表現されている写真だと思う。

聴いていて楽しくって、繰り返して聴いてしまう。いい意味でスキマがあり、耳への残り方がザラザラしていないしかといってあっさりもしていない。この何作かに感じられた「絡み合う」とも違うのだー。
この数年いろんなカタチで交流をしてきたミュージシャンからの影響も感じる。そして遂に同じステージに立ったときのTelevisionの演奏や、ファンであることを熱く語ってくれる後輩NOVEMBERSなど。

ジャケもすごーく好きだ。鬼火以降の個人的大ヒット!ジャケ写はセレクトとともに青みがかった色味が美しく、ヤマ字がセンスよいなあ。今回の音のまさに「顔」になっている。それと作詞作曲バンド名義なのかな。その辺りも新しい。そして個人的に驚愕したのが「上領亘*1」氏のお名前があるコトです!!!

収録曲からピックアップしてひとこと。
「Neurotic mole」 この何年かライブで感じる「蓄熱」なカッコヨサのひとつの到達点。
「fire walks with me」 ゆっくりと地面を踏みしめる。俯き加減で歩いていても遠い先にほのかに灯る光があるから大丈夫。
「HAL」 冷たい朝の光がまだ残ってる雪に反射してキラキラしてる。こういう軽みのあるインスト好きだなあ。 
「purge」  ヤマジらしいサイケなヒネリあるポップなメロディは、ベースラインがこれまでにない足跡を辿ることが特質的。トタトタするベースにグギャグギャしたギター、つんのめるドラムが楽しい。まさに初期XTCフィーリング。
「blinking sun」 これまたこれまでにないノリの楽曲、マンチェ!なんだけど、澄田さんとのライブを思い出した。そうそう、追記すると澄田さんのギターの音色やセッションでの演奏が今のdipに繋がったように思う。ライブで盛り上がりたい!
「finalsong」 ひいやりとした空気のなかでゆるゆると溶けて行く、純粋培養された箱庭の世界はひとりぼっちの哀しみをたたえているけれどやさしい幸せに満ちていて、ギターは細い鋼でヒリヒリしててベースは柔らかく包み込んでくれてドラムは見守ってくれてる。
「morph」 穏やかな場所に辿り着き、ほっとしてまっすぐ歩いているはずなのにぐんにゃりと世界がゆがみ、足を踏み外してゆくような。聴いていて震えた・・・!すごーく好き。素晴らしい。
「you are」 不安定でどっちつかずの密やかな感覚がたまらなくここちよくて膝を抱えて泣いてる。morph同様、こういう曲もあるってことがdipの唯一無二なところで、アメリカやイギリスのバンドに強く影響されつつ日本のロックバンドだからこその音色だと思える。すごくすごく好き。


相変わらずダラダラ語りまくりましたが、とにかくいいアルバムだということなんです。

*1:ベラさんとやるようになったときにもビックリしたけど。ここで書くのもなんですが、グラスバレーの1stで私の音楽人生が始まったと行っても過言ではないのである。ここからjapanを聴きnewwaveを聴き…と広がったのです