うどん屋のある街

遅い昼休み、雨がぽつぽつ降ってきたけれど冷房で冷えきった体をあたためたくて、うどん屋さんへ。
オフィスビルの谷間の、神社の参道沿いにあるこの店は、周囲が移り変わる中でも営業を続けておられたであろう佇まい。
いつも頼むのはしっぽくうどん。透明なお出汁に小松菜、人参、蒲鉾と花鰹にとろろ昆布を載せて、見た目にも美しくて勿論おいしい。「おいしい」とは「美しい味」って、つくづく納得させられるなあ。店内のこざっぱりと手が行き届いた様も味に通じている。
窓から見える植え込みには紫陽花が青く咲いている。その向こうには高層ビルが連なっていて、空はほんの少ししか見えない。
高層ビルが立ち並ぶオフィス街に神社なんて不自然さを感じるけれど、一本路地を入ると古い木造家屋が密集していて、これが元々のこの街の姿であったことに気づかされる。かつては住宅街であり、神社は氏神様として界隈の人々を守ってきたのだろう。ぎゅっと身を寄せるように並ぶ家々も歯抜けになり、幾つかまとまるとオフィスビルやマンションに変わって行く。神社すら真新しくきらびやかに変わってしまった。この店はそんな変貌を目の当たりにしつつ、変わらずうどんをつくってきたのだろう。
ごちそうさまでした、とレジで会計を済ませるときに「こちらはいつから営業なさっているのですか」と尋ねてみると、「もう50年にはなるかしら…」と答えてくれた店の女性は奥にいるおばあさんの娘にあたるのかな。「こちらのうどんはいつもとても美味しいです」と言うと、とても嬉しそうに照れくさそうに微笑んで「ありがとうございます」と返してくれた。
これからもこんなささやかなひとときを味わいたくて、この店に向かうのだ。